家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
ちょっと前、桜の季節に
京都の勝持寺というところに行ったんです。
そこは、西行さんの花のお寺として有名なところで
人里離れた静かな雰囲気も、何とも言えず良いところ。
そこで拝見した西行さんの像が、まるで生きているようで
よく来ましたね、まあゆっくりしていきなさい。
と話しかけられているような感じがして
一言で言うと、その西行さんに心奪われたんです。
以来、ことあるごとに西行さんのことが心から離れず
もっと西行さんについて知りたくなりました。
そういえば、朝日新聞が選ぶ平成の本100選の中に
西行さんの本が入っていたことを思い出し、
読んでみたのがこれです。
「西行花伝」(辻邦生著 新潮社)
ストーリーをざっくり説明すると
時は平安末期
保元の乱、平治の乱
かなりどろどろの乱世です。
話は、西行の弟子の藤原秋実が
西行にかかわる人を訪ねて西行の半生を描くという展開です。
けれど実際は
西行を通して
その時代の権力の栄華盛衰を浮き彫りにしている話といった方が正しいかもしれません。
栄華盛衰、盛者必衰といえば、平家物語ですが
この本を読むと
平家の栄華盛衰なんて、歴史の中では、一つの事象に過ぎず
歴史の中で、常に繰り返し繰り返し、似たようなことが起こっていることに気づきます。
現実に生きるということは
多かれ少なかれ
そういう力関係の上下の中で
勝ったとか負けたとか
そういう世界で生きています。
勝った負けたの世界
実は、私も経験があります。
以前にも書いたことがあるのですが
私、以前、料理サイトで料理を発表していたことがあるんです。
毎週アクセス数のランキングが出て
私は、そういうのを気にせず、自分の好きな料理を発表しようと思っていたので
そういうの全然平気、って思っていたんです。
ところが、
やっぱり気になるんですよ、
どうしても気になるの、アクセス数。
気にしてない、って思えば思うほど、どんどん気になってくる
でもね、アクセス数を取るためには
私の考える、作りやすさとか、おいしさとは違う思考で料理を考える必要があって
ホントに料理を必要としている人のためにとか
作りやすいとか
そういう、今まで大切にしてきた基準でレシピを考えていたのでは、だめなんです。
でもね、そう言うのは、
正直、家庭料理研究家が発表するレシピではない
自分がやるべき仕事ではない
あくまで、自分らしいレシピを発表するべきだ
と、思ったんです、最初は。
でも、そのうち心が揺れ始める
アクセス数を気にするな、と自分に言い聞かせるのだけれど
心が揺れる、揺れる揺れる。
で、正直に白状すると
時々、アクセス数を取りに行くようなレシピも書くようになっていったんです。
でも、自分で自分の価値観を否定しているようで
何やっているんだろうって思った。
今思い出しても、あの時は本当にしんどかったな。
アクセス数が思うように取れないこと以上に
レシピを、そういう風な目線で考えることがつらかった
だからね、あのサイトが終わった時は、本当にほっとしたんです。
あの後、日めくりレシピで
自分の本当にいいと思うレシピを、損得抜きで公開しようと思ったのは
言ってみたら、西行さんが出家したのと、同じようなことだったのかもしれません。
結局ね、あのまま続いていたとしても、
アクセス数に翻弄され続けて、苦しいだけで終わっていたのは確かです。
たとえトップを取れたところで、
(そんなことは、ありえないけど)
盛者必衰でしかなかった。
だから今、
日めくりレシピを日々発表することは
そういう、競争とか、損得とかと無縁のところで
私のレシピが誰かの役に立つようにという願いでもあり
心、平和です。
だから、西行さん目線で世の中の盛者必衰を描いたこの作品
今、このタイミングでこの本に出合えてよかった。
これから料理研究家としてどう生きるか
方向性が見えました。
とにかく、ものすごく共感できたし
自分のやっていることを、西行さんに肯定してもらったようで
すごくうれしくなりました。
文庫で700ページ超えの長編ですが
どう生きるべきかということを示唆してくれる、すごい本。
おすすめです。
コメント
はじめまして。57歳の主婦です。奥薗先生のレシピ、毎日作っています。今まで献立を考えるのが楽ではなかったのですが、先生の日めくりレシピを知ってからは、献立、買い物が楽で早くなりました。食費も押さえられてると思います。
昨夜は、春キャベツのオープンオムレツに切り干し豚汁(二回目)で美味しかったです。
トマトスンドゥブは初めての味、ナンプラーも初めて買いました。主人に「変わった味だったら、ごめんね。」と出しましたが、二人とも「おいしい‼️」と完食しました。
毎日楽しみにしています。
はじめまして。書き込み、ありがとうございます。
それから、日めくりレシピ、作ってくださって、ありがとう。実際に作ってくださって、おいしかったといってもらえることが、何よりの励みであり、幸せです。本当に、本当にありがとうございます。
どうぞ、末永くお付き合いください。