でいりいおくじょのBLOG

2020.05.31

読書日記「開口閉口」

開高健さんワールドに

またしても、どっぷり浸ってしまいました。

 

「開口閉口」(開高健著 新潮社)

 

開高健さんの書かれたものは、中毒性がある。

一度はまってしまうと、読まずにはおれなくなってくるんです。

 

あまりにも濃すぎて

時々、深呼吸をしながらしか読めず、

途中、違うタイプの軽い小説などを間に挟んで

深呼吸しながら読み進まないとしんどくなるんだけれど

それでもやっぱり、また読みふけってしまう。

 

料理で例えたら

何日もかけて煮込んだ煮込み料理みたいな感じ。

ぐつぐつ煮返して、具材が全部どろりと煮崩れて

全てが混然一体となって、不思議な調和と余韻と芳醇な香りを醸す。

 

ところが、混然一体となった煮込み料理みたいな文章の中には

予想をはるかにぶっ飛ばすようなすごいことが混ざっていたりして

ギョッとしたり、うおおおってなったり

恐れおののいたり、笑い転げたり、ひれ伏したりする。

そんな文章です。

 

結果、一度読んだら、中毒になってしまうんです。

 

この本は

週刊「サンデー毎日」に2年間連載されたエッセイを

まとめられた本ですが

 

開高健さんの、貧しく、苦しかった10代の頃の話から

世界中を旅行し、時にとんでもないところを放浪された話とか

 

食べ物の話、お酒の話、釣りの話等々

頭の中はいったいどうなってるんや~~~って

叫びたくなるような、すごい知識と経験と読書量に圧倒されます。

 

途中、事務所を作って独り暮らしを始められ

生まれて初めて自炊を経験される話があって、

 

料理と洗い物がめんどくさいので

一日二食、朝はコーンフレークに決めるんだけれど

 

コーンフレークをしゃぼりしゃぼりぼそぼそと咀嚼しておられる姿は

まるで修行僧のようにも思える。

袋の底に入っている、ドナルドダックやら、ミッキーマウスやらのミニチュアのおまけが

少しずつ増えていくくだりは

なぜか、男の哀愁を感じるなあ。

 

ハンバーグ作りに挑戦される話も面白かったなあ。

 

絶対焦げ付かないという、高いスウェーデン製のフライパンで

ハンバーグを作ろうとするんだけれど

ひっくり返そうとしたら、焦げ付いているわ

肉がぼろぼろになって、肉そぼろになるわ。

 

で、その肉そぼろをパンにのせて食べようとするんだけれど

ちっともおいしくない。

 

頭の中では

サイゴンで食べた、タルタルステーキみたい奴をイメージして

口の中も、その生肉の、血のような肉汁がしたたり落ちている味と食感でいっぱいになっている

 

じゅわっと口に広がり肉のおつゆと、芳醇なうまみ

やっぱ、ハンバーグはこうでなくっちゃと官能の世界を漂えるようなやつ。

 

口と頭は、すっかり受け入れ態勢は整っているのに

出来上がったものは、口ので、もかもかニタニタするだけの肉のそぼろだった

嗚呼・・・。

 

読んでる私は、笑えただけれど、

開高先生の気持ちは、いかばかりだったか‥。

 

この連載の途中で

体調を崩されて

胆のうを摘出される。

 

それまで、暴飲暴食で、タバコも吸って

かなり無茶苦茶な生活をされていても

全く問題なく健康だった人が

手術入院されて、胆のうを取られたわけですから

やっぱり、いろんなことを考えられたんだと思う。

 

自分があとどれくらい、生きて

どれだけのものをかけるのか、そういうことも考えられたんだと思う。

 

胆のうを取られた後の文章には

そんなことを思っておられる感じが、ところどころでにじみ出て

そのことで、更に、深く、味わい深く、時に悲しみさえ含んでいる感じがして

ますます引き込まれました。

 

一番最後のエッセイには

小説を書くために、連載を終了するという事が書かれていて

そこには、それまでとはちょっと違う

命を懸けて、最後の仕事に挑む決意のようなものがあふれていて

思わず涙ぐんでしまった私でした。

 

2020年5月30日開口閉口

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