でいりいおくじょのBLOG

2013.12.13

ある精肉店のはなし

『ある精肉店のはなし』

そんなタイトルのドキュメンタリー映画を見ました。
 
 
 

舞台は大阪貝塚市にある北出精肉店。

どこの街にもあるような小さなお肉屋さんなのですが

この店が他の店と違うところは

自分たちで牛を育て、解体し、そしてその肉を売っていること。
 

肉屋の店先のすぐ横が牛舎。

屠場はそこから、そんなに離れていない場所にあるのだけれど

まるで牛をお散歩につれ出すかのように住宅街を横切って、屠場まで連れて行く様子は

やっぱりなんだかちょっと変な感じ。
 

屠場に入ると

家族4人の息のあった手さばきで牛が捌かれていきます。
 

家業をついで7代目になる北出一家。

被差別部落ゆえのいわれなき差別を受けてきた父親の姿。

子供の頃から見てきたその父の姿ゆえに

この家業を続けていくことが自分の使命と、誇りを持って仕事をする姿は

時に誇り高く、時に優しく、とてつもなく温かい。
 

ところが、2013年3月

代々使用してきた屠殺場が、閉鎖されることになり

牛を育て、その牛の肉を売るという商売を続けていくことができなくなることに。
 

最後の牛を解体する日。

いつもと同じように手際よく阿吽の呼吸で作業する一家。
 

これまで

牛や豚の解体をテーマにした海外のドキュメンタリーをいくつか見てきて

そのたびに、命とは?食べるとは?というようなテーマをつきつけられました。

この映画も、そういうテーマを扱っているのだろうと予想しつつ

見に行きました。
 

ところが、違うのです。

なんとも言えず温かいのです。
 

家族みんなで仕事をし、家族みんなでご飯を食べ

地域の仲間と祭りをやり

家族も地域も、みんながなんとも言えない優しさでつながっているというか。
 

そして心に残るのは、

「命の重さ」以上に「命のつながり」ということ。
 

かつて農業国だった日本が工業国になって

効率が重視され、仕事の分業化が進んで

土を耕さなくても、米も野菜も手に入るようになりました。
 

それと同じように、屠殺というものを見なくても

スライスされた肉が、簡単に手に入るようになりました。
 

その便利さはありがたいと思うし、決してマイナスだとは思っていないけれど

命のつながりは、あちこちでブチブチと断ち切られていったように思います。
 

工業製品の歯ブラシを買うのも、トイレットペーパーを買うのも

工業製品ではない肉を買うのも、お惣菜を買うのも、同じ。

陳列棚に並ぶ前のストーリは、ぷつんと切れてしまって、ない。

いや、あるんだけど、感覚として、ない。

便利さがあるだけで、命のつながりは確実に希薄になっている気がします。
 

そして、その希薄さは、

人と人とのつながりや、隣人とのつながりや、地域のつながりの希薄さと

どこか似ていなくはないか?
 

この映画に出てくる北出一家が一緒にご飯を食べ、仕事をし

笑いながらいたわりあい

また、地域と積極的に関わりながら、つながりを求めていく。

そのことと

牛を飼い、解体して肉にし、食卓に届け、美味しく食べること。

この2つは、実は根っこのところでつながっているのだと、気づかせてくれる。
 
 

肉を食べ

内臓からは脂をとって石鹸の材料にし

油をとったかすは、油かすとしてこれも美味しくいただき、

皮は、だんじり祭の太鼓の皮となって

地域の人をつなげていく。
 

奇しくも

今年の漢字は『輪』。
 

人と人、家族、友達、地域

自分はきちんとつながっているか。

命のつながりの大切さや温かさというものを、

牛肉を通して、再確認させてくれるいい映画でした。
 

現在中野ポレポレという、小さな映画館だけでしか上演されていませんが

見る機会がありましたが

おすすめの映画です。
 

コメント

  1. ミーちゃん より:

    こんにちは。
    先日東中野ポレポレに行ったらこの予告が流れていたんですが、6年前の作品になるのですね。
    屠場へ牛が引かれていくところでは泣いてしまいそうでした。
    私は岸和田市在住ですが隣の市のこのお店のことは全く知りませんでした。
    今回は大阪の十三でもやるみたいです。
    是非観てみたいと思います❗️

    1. 奥薗壽子 より:

      これは、本当にいい映画で
      見終わった後に、本当にいろんなことを考えました。
      今でも、一つ一つの映像を鮮明に覚えているくらい、インパクトのある映画です。
      是非是非、見てください。

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