家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
『風が強く吹いている』
(三浦しをん著 新潮文庫)
人に勧められて、何気なく読み始めた本でした。
本好きの間では大人気の本なので
何を今更と思われるかもしれませんが、
この手の本は、イメージとしてちょっと嫌煙していたところがあるのです。
箱根駅伝を目指す10人の大学生。
それまで駅伝とは全く無関係の学生生活をしていた彼らが
突然駅伝を目指して、猛特訓。
そして駅伝を走る、というストーリー。
いや、こう書いてしまうと、よくある青春スポーツ小説みたいに見えてしまうんですよね
正直、読む前は私もちょっとそんなふうに思っていました。
しかも、走るとか駅伝とか、そんなに興味もなかったし
だから、なんだかちょっと手が伸びにくかったというか。
でも、読み始めてみると
これがもう、ぐんぐん走りの世界に引き込まれてしまうのです。
足の怪我で、走ることを諦めかけたハイジこと清瀬が
天才ランナー走(かける)に出会い
駅伝を走ることを決意するところから、この物語は始まります。
走るメンバーは
同じ安学生アパートに住む10人。
10人は全く走ったことのない素人もいれば
昔、陸上をやっていたとか、サッカーをやっていたとか
その程度の面々。
このメンバーで、箱根を目指せるのか。
天才ランナー走(かける)もまた、一には言えない過去があり
なぜ走るのかを自問しながら走り続けることになります。
なぜ走るのか
なぜ走るのか。
箱根での走り、それぞれの思い
そのへんがこの小説の醍醐味になるところなので
是非、読んでいただきたいのですが
なぜ走るのか。
走(かける)も清瀬も自分に問い続けた問に対して
最後まで答えは見つかりません。
けれど、読み終えた後気づくのです。
理由などいるのだろうか。
走る目的など必要なのだろうか。
例えば、私は、「走る」を「料理をする」に置き換えてみるわけです。
毎日、3食料理をしています。
なぜ、毎日、毎食手作りするんだろうと思うこともあります。
なぜ、料理するのか。
なぜ、毎日料理をつくるのか。
買ってくるとか外食するとか
楽してお腹を満たすだけなら、いろんな選択肢はあるはずなのに
やっぱり、台所でちょこちょこと料理し続ける自分がいます。
それは
箱根に早く到着したいなら、
走るより電車や車で行ったほうがはるかに早いはずなのに
わざわざ苦しい思いをして走って箱根を超えようとしているのと似ています。
料理を作りたいとか楽しいとか
もちろん、そういう要素がないこともないけれど
けしてそれだけではなく
めんどくさいとかしんどいとか、煩わしいとか、そういう気持ちだって確実にある。
それでも毎日料理をし続けるのは
別に目的や理由があるわけでもなく
いや、むしろ目的や理由など必要ないんだなということが
この本を読んでわかったこと。
毎日、毎食自分で作って、家族と食べる。
毎日、決められたコースを黙々と走る。
それ以上でも、それ以下でもなく
それだけのこと。
けれど、それだけのことが自分にとっては尊く
またそれで生かされていて
自分以外の何かとつながっている。
駅伝で勝つということは
優勝するということだけではなく
タイムだけでもなく
勝ち方にも、いろんな勝ちがある。
自己ベストを更新するとか
あきらめずに完走するとか
料理の話で言うと
仕事で帰りが遅くなって、ありあわせのものでバタバタと料理して
適当に作ったものがおいしくできたりしたとき
毎日こつこつと料理してきたことの延長線上にこれがあるのだと思えて
こつこつ料理を作り続けてきたことが
全て報われたような気になったりすること。
走る、ということを通して
いろんなことを考えるきっかけになる一冊。
それにしても、来年の箱根駅伝は、今から楽しみ楽しみ。
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