家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
いやあ、なんとも言えない世界に連れていまれました。
・・って
本の話です。
「むらさきのスカートの女」(今村夏子著 朝日文庫)
今村夏子さんの作品は
「星の子」とか「あひる」を読んできて
今村夏子ワールドは、結構好き。
なんとも言えず、すわりの悪い、ざわざわした感じ
かといって、いや~な感じでもない。
なんだろう?今まで味わったことのないような気持ちになる。
癖のあるくさいチーズを食べて
ああ、これダメやって思うんだけれど
またつい、手が伸びてしまうような感じ。
この「むらさきのスカートの女」は
芥川賞受賞作品でもあるので
前から気にはなっていたものの
なかなか手が伸びなかった作品。
なんかねえ、賞を取ったやつって
対後回しになる、あまのじゃくなんです、私。
ストーリーはこう。
むらさきのスカート女と言われている人がいる。
いつもむらさきのスカートをはいているからで
小柄で髪が長く
そんなに若くもない感じで、
週1回くらいパン屋でクリームパンを買い
公園の専用ベンチに座って食べる。
そのむらさきのスカートの女の暮らしを
事細かく観察している女がいて
その女の語りで、この小説は構成されていて
それによってむらさきのスカートの女について
少しずつ色なことがわかってくるんだけれど
実は、読み進むうちに
むらさきのスカートの女の事よりも
それを観察している“わたし”は誰なん?
って、そっちの方が気になって、気になって仕方なくなってくる。
そして、その“わたし”は、いろんな小細工をして
むらさきのスカートの女を自分と同じ職場に就職させることに成功
(ホテルの清掃員)
おそらく同じ職場なのに
声をかけるわけでもなく(友達になりたいとは思っているようなんだけれど)
ひたすら、紫スカートの女の、行動をチェックし続ける。
何時に家を出て、何をやって、誰とどんな話をして、何時に帰って
休みの日は何をして・・。
こうなるとまるでストーカーで
最初は、むらさきのスカートの女が怪しいと思っていたのに
“わたし”(黄色のカーディガンの女)の方がはるかに怪しくて、いったい誰なん?って気になる。
紫スカート女のことが詳しくわかればわかるほど
“わたし”(黄色のカーディガンの女)の方が気になるという
逆転現象が起こってくるんです。
更に!!
現実のむらさきのスカートの女は、
私が思っているような人とは、かなり違っているようで
ストーリーは
ええええええ~~~~~~~~~~~!!!!!!
って言うような方向に進んでいきます。
いやぁ、想像のはるか斜め上を行きますねえ。
今村夏子さん、天才やわ。
細かいストーリーは、是非読んでもらうして
この小説を読んで思ったことは
人って、結局外から見えていることは
ほんの一部に過ぎなくて
結局は、それを見る人によって、出来上がる人間像は違っていて
その、誰かの頭の中に出来上がった人間像も
実際のその人とは、まったく違っているんじゃないかと思う。
むらさきのスカートの女は
毎日むらさきのスカートをはいているからむらさきのスカートの女と言われていたはずなのに
私があとから思い出そうとしても
実際には何色のスカートをはいていたのか
無皿木だったのか、違ったのかさえ、思い出せなかったりするんです。
履いていたスカートの色でさえそうなのに
もっと別のこと、性格だとか、顔の印象だとか、行動とか、しゃべり方とか
見る人が勝手に、思い込んでいるだけに過ぎないのかも
と思ってしまいました。
人と人との距離感って
案外、自分が思っている以上に遠くにある方がいいのかも。
なんとも言えず、不思議なあと味。
むらさきのスカートの女より
やっぱり、黄色いカーディガンの女の方が、心配。
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