家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
若松先生の新刊、ようやくよみ終わりました。
「藍色の福音」(若松英輔著 講談社)
この本は、著者の自伝です。
けれど、一般的な自伝とはかなり違います。
普通自伝というと、子供の頃から現在に至るまでの出来事を
時系列で書かれるのが一般的です。
子供の頃はどうで
この職業に就いたきっかけは何で、というように。
けれど、そういうやり方では、どうしてもフィクションが入り込み
本当に起こったことが少ながらず歪んで書かれることになり
どうやっても避けがたい欠落を持つことになるというのです。
そこで、この本では
書物と、そこに書かれた言葉、そしてそこにつながるコトバというものを手掛かりに
ご自身の過去をもう一度経験しなおしてみるという試みがされています。
言葉とコトバを通して
もう一度自分の人生を客観的に見つめなおし
自分が今に至るまでの道筋を、運命の声として聴きなおして
悲しみや、苦しみと真摯に向き合った一冊です。
著者の人生の時間軸が、
行きつ戻りつし
また、一瞬の場面のみが書かれるところもあれば
遅々として、時間が進まないところもあり
出会った本や、著者のこと
著者自身の言葉(コトバ)と、書物に書かれた言葉(コトバ)が交錯していきます
16歳まで3冊しか本を読まなかった少年が
ある時、文学に触れ
言葉に目覚め
文章を書く人になりたいと願う。
けれど、
書けない事に苦悩し
17年間もかけない時を過ごします。
伴侶となる女性の死
書くことを生業とするために、乗り越えねばならない困難
困難の渦中におられる所は
読み進むのが苦しく
正直、一日に1ページも読み進むことができませんでした
けれど、これらのでき事の一つ一つが
最終的に、批評家という職業に至る道程であったかのようにも読めます。
そのどれが、違っていても、批評家にはいきつかなかったような気がします。
最後のあとがきの所に
悲しみは藍色をしているとあります。
黒でもなく青でもなく、藍色
そして、愛のないところに悲しみはなく
悲しむことで愛を紡ぎなおす
だから、悲しみはよろこびの知らせなのだと。
福音は、まさに喜びをもたらす知らせという意味ですから
この本を書くことで
ご自分の人生の中にある、悲しみと喜びを
もう一度見つめなおして浄化させ
喜びとして、受け入れられたんだと思います。
最後は、何か希望のようなものさえ感じました。
確かに
もう一度生きなおしてみるようなつもりで
過去の出来事を見つめなおしてみるということは、
人生のある時点で必要なことですね。
見過ごしていたような小さなことが
人生にとっては、とても重要で
その後の運命へと誘ってくれていたというようなことに気づくかもしれない。
例えば、私だったら
なぜ、料理なのか
なぜ、こういう風な料理の考えに至ったのか
なぜ、こういう風な生き方をしているのか
そのことを、人生をさかのぼってみることで
見えてくることがあるに違いありません。
そして、
自分の生き方を再確認する作業して、いったん仕切り直し
これから、また新しい気持ちで前を向いていく
そいういう事って
人生のある時点で
やらなければならない事のような気がしました。
自分の人生の中で
見て見ぬふりをして
なかったことにしている事があります
そういう事も、どこかで一度、
気持ちに折り合いをつけないといけないのだと思います。
自分の人生の、忘れていたようなことを思い出し
また、見つめなおすきっかけをくれる本です。
ちょっとしんどい部分もありますが
書かれている言葉の一つ一つ
とても、心にしみるものが多いので
そういう意味でも、おすすめの一冊です。
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