家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
プロとしていい仕事ができるか、できないか
問題を解決するとき、自分のアイデアどのように完成させればいいのか
その考え方のヒントとなる話が満載された本。
文章はとても分かりやすいのに
書かれている内容は、とても奥深い
著者は
カーネギーメロン大学教授。人工知能、コンピュータービジョン、ロボット工学の権威。
世の中で起こっていることを、どうやれば簡単にできるのか
どこを省略すれば、もっとわかりやすくなるのか
ということを考えるのが、科学や工学の基本だそう。
単純化が進めば進むほど、理論としては鮮やかになるが
単純化の量が足りないと難しぎて理論にならない。
難しいことを、思い切って簡単にできるかどうかが、能力の差となる。
思い切って省略できなければ、前に踏み出すことができず
いい結果も出せない。
導き出された答えを知った人が
「これを使えばあれができるな」「これらなら自分にもできる」
という風に、触発されたり、心を動かされてやる気になったりするような
メッセージ性のある研究をするべきだ。
アイデアというのは、ダイエットのように一日10分コツコツ考えたから生まれるというものではなく
ずーっと長く考え続けなければならない。
この本に書かれていることは、そのまま家庭料理研究家の仕事にも当てはまる。
昨日書いた、鰹節のだしの話
日本の家庭料理における、だしの文化は、どんなに世の中が便利になってもなくならないと思うし、味覚の継承という意味でも、家庭料理の中で、大事にしていくべきものだと思っています。
けれど、あらかじめ昆布を水に浸けたり、引き上げたり
鰹節をこして、だしを取った後の出し殻でつくだ煮やふりかけを作ることが、
だし文化を守ることになるとは、どうしても思えません。
これの、どこを省略し、どの程度簡略化するか
さじ加減がすごく難しい。
例えば、昆布だと
私は、だし昆布は1×10センチの短冊に切って、そのまま食べることを考えました。
それまでの料理書では
なぜか、昆布は10×10センチというように正方形に切るように指示されていて
四角く切るメリットが何なのか全くわかりませんでした。
短冊に切ることで、細きりにしやすいこと
細きりにすることで、引き上げずに食べてしまえること
しかも、細きりにして断面を多くすることで、少量の昆布でおいしいだしが取れる。
これで一挙に解決です。
ちなみに昆布は短冊状で保存することを提案しています。
買ってきたら全部細きりにしておきたい人は、別にやっていただいて結構ですが
全部細きりにするのは時間がかかるし
昆布を買うたびに細切りにしないといけないのかと思うと
昆布を買うこと自体がおっくうに思えてきたりする。(それ、私だけ?)
昆布を気楽に買って、使いやすく保存する下準備としては、短冊くらいが限界だと私は思っているのです。
鰹節にしても、小袋のパック入りの鰹節を使い
越さずにそのまま具として食べてしまうことを提案しています。
実は、小さいパック入りの鰹節より、大袋に入っている削りの大きい花かつおを使うほうが、確実にいいだしは取れます。
(さらに言えば、昔のように、その都度削ったほうがいいだしは取れる)
事実、奥薗流のかつおだしは、大袋の花かつおを使うように提案していた時期もあったのです。
ただ、花かつおは削りが大きいので、そのまま入れると汁の中で丸まって団子になる。
具として食べにくい、のどに引っかかってげーげーいう。
なので、その解決法として
袋の上からもんで細かくしてから使う、という提案をしていました。
ところが、そのやり方だと、残った花かつおをどうやって保存するかという問題が残る。
そのままいい加減に放置すれば、確実に香りは飛ぶし
誰もが毎日家で味噌汁を作るとは限らない
となるといい状態で使い切るのも難しくなる。
そこで、たどり着いたのが、小さいパック入りの鰹節を使うこと。
こう書くと、ナ~ンだというようなことですが
実は、私は、鹿児島の枕崎まで行って、鰹節の生産現場を見せてもらったこともあり
実際に鰹節を作らせていただいたりしたので
鰹節への思い入れは、とても強く
花かつおと、パック入りのかつおでは、製造方法が違うこと、だしの出方も違うことなど
よく知っていたので、そこを妥協していいのかと、正直ずいぶん悩みました。
ここで、あらためて
多くの人が、望んでいることは何かを考えました。
本格的なおいしいだしを取りたいのか
ごみを足さずに、手軽に美味しいみそ汁が飲みたいのか
答えは、後者。
料理屋さんで出てくるようなすばらしいみそ汁じゃなくても
毎日、ストレスなく作れて、本物のかつおでとったおいしいだしの味噌汁が飲めればいいと思っている人のほうが多いはずだと考えました。
(料理屋さんのようなだしを望んでいる人なら、ごみが出ようが、手間がかかろうが、そのことを問題にしない気がする)
それなら、パック詰めの鰹節がいい。
一回使い切りなので
保存に気をつかわなくてもいい。
その場でぱっと入れるだけ、それだけで本格的なカツオだしの味噌汁が、気楽に作れる。
忙しい人も、疲れている人でも、料理が下手な人でも、やる気がない人でも
かつおパックを入れるくらいなら、できるはず。
パック詰めの鰹節は、削りが細かいので口に残らないし
細かいので、最後にぱっと入れるだけですぐにうまみが出るというメリットもある。
しかも、この昆布と鰹節の使い方テクは、汁ものだけでなく
煮物や炒め物、蒸し物、など、他の料理も自由自在に応用ができる。
つまり、これだけにとどまらず、このやり方を知った人が
新たな使い方のアイデアを生み出せる楽しさがあるということ。
最初は、ごみを出さないで、手軽にだしを取ることはできないだろうか、という
素人として手の発想から始まり
プロの家庭料理研究家としての経験や、予測、実験を繰り返して
限りなくシンプルで簡単な方法論にたどり着きました。
考えてみたら、最初に素朴な疑問を持ったあの時から、
ここにたどり着くまでに20年以上かかりました。
やはり、ああでもないこうでもないと、考え続けることが大事なのですね。
いろいろ、長々と書いてしまいましたが
直面している問題の解決方法が全く見えない時
やろうとしている問題に価値があるのか
そもそもこの問題は、答えがあるのか
そういう不安に陥った時
この本はおすすめの一冊です。
確実に、糸口になるべきヒントが見つかります。
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今日の日めくりレシピは、週末スペシャル
食材はずいきです。
ずいきは里芋の葉柄。土の上に出ている葉っぱがくっついている茎の部分です。
私の故郷の京都でも、甘酢に漬けたり、煮物にしたりして、子供のころからよく食べてました。
「ずいきの梅甘酢漬け」「ずいきと油揚げの煮びたし」を紹介しています。
「日めくりレシピ」はツイッターでも毎日お知らせしています。
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