でいりいおくじょのBLOG

2014.02.21

読書日記 高円寺純情商店街

 

「高円寺純情商店街」(ねじめ正一著 新潮文庫)
 
 
 

昨日に引き続き、ねじめ正一氏の作品です。
 

やっぱり直木賞を受賞した代表作なので、
 

こちらも紹介しておかねば、と思ったのです。
 
 
 

この物語は

高円寺北口にある商店街の中の

「江州屋乾物店」の一人息子正一の目を通して

商店街で繰り広げられる様々な人間ドラマを描いた短篇集です。
 

時代は昭和30年代

物語全体を覆っている、のんびりしたレトロ感は

ちょっと映画ALL WAYSに通じる感じ。
 

江州屋乾物店は様々な乾物の他に、ちくわや卵や干物など

色んな物を売っていて

中でも鰹節は

「削りかつおと言えば江州屋」と評判を取るほど。
 

毎朝、家族総出で削り鰹を作るシーンの描写は圧巻です。

行間から鰹節のいい香りが漂ってきます。
 

朝6時

お母さんが問屋の大箱の中から汚れたままの鰹節を取り出し

流しで金だらいに浸け、カビやほこりをタワシで落としていく
 

それからおばあちゃんが3段せいろに入れて、柔らかく蒸す。

これがおばあちゃんの腕の見せどころで

ふかしすぎても、ふかし足らなくても鰹の旨味がでない。

おばあちゃんはかつおふかし30年のキャリアで

微妙な火加減と絶妙のタイミングでふかし上げる。
 

ふかし上がった鰹節を

おとうさんが機械にかけて削り、削り節にする。

これも刃の調整、削り具合、力の入れ方など

熟練した職人技があってこそ、江州屋自慢の薄く向こうが透ける花かつおになる。
 

そして、この花かつおをフルイに入れて、手でこすりつけ

サラサラと決めの細かい粉かつおを作るのが正一の仕事。
 

子供にもちゃんとこんなふうに生きていくための役割があって

歯を磨いたり、ご飯を食べたりするの同じように

当たり前に店の仕事をして、学校にいく。

正直、お手伝いをやりたいかかといえばやりたくないんだけれど

やりたくないとは言えない。

その言えないということが、乾物屋の倅なのだと薄ぼんやりと感じている。
 

朝ごはんは

梅干と、昨日の残りの大根の煮たのとおかか。

母親が磨いて、おばあちゃんがふかして、父親が削った鰹節を、

正一がふるいにかけてできた粉かつおに醤油をまぶし

温かいご飯に乗せて食べる。

こんなに旨味ものはないと思って食って食って食いまくる。
 

このシーンも

読んでいるだけで、グーッとお腹がなってきます。
 

私自身、以前、料理するたびに自分で鰹節を削っていた時期がありました。

鰹節削り器の刃の出し具合とかを微妙に調整して

シュッシュッと薄くリズミカルに削れた時は

なんだかそれだけで、料理が数段美味しくなったような気になりました。
 

鰹節を蒸して、柔らかくしてから削ると削りやすいのは知っていましたが

蒸すのはなかなか面倒くさく

硬いまま四苦八苦しながら削るのが常で
 

ある時、鰹節を電子レンジにかけてから削るといいよと教えられ

早速やってみました。
 

たしかに手軽に鰹節が柔らかくなり

面白いようにシュッシュッと削れます。
 

けれど、家庭では1本全部削るわけではなく

必要な分だけ削ったら、残りはそのままおいておき

また次の日、電子レンジにかけて必要な分だけ削ることになります。
 

そうすると、どんどん味が落ちていくんですね。

せっかく削りたてなのに

なんだか、どんどん香りもなくなって、味も変わってくる。

つまり繰り返し電子レンジにかけたことで、確実に鰹節の質が落ちてしまったんですね。
 

その日に売れる分だけ磨いてふかして削る

こういうゆったりした時間の流れの中でこそ存在する豊かさがあるんですよね。
 

この時代、結婚式の引出物に鰹節が使われるので

結婚式シーズンは、引き出物の箱詰めで忙しくなるシーンが出てくるのですが

それはつまり、鰹節1本もらっても

当たり前のように削って、お味噌汁なんか作っていた時代だったってこと。

それほど遠い昔のことでもないのに

そう思うと、昭和ってすごく昔のように思えてきます。
 

やっぱり、あの昭和の時代の

ゆったりした時間の流れの中で、当たり前に存在していたものは

時間の早さと、人が生活するリズムがワンセットになっていて

両方の早さがどんどん早くなっていった時

便利にはったけれど、なくしてしまったものも確実になる。
 

鰹節というスローな食べ物に、電子レンジというファストな機器は

やっぱり不釣り合いだったのかもしれません。
 

それにしても、

粘着質のハエ取り紙の話とか

部屋を増築する代わりに建てられた小さなプレハブの離れとか

銭湯の話とか
 

昭和30年代に子供だった人が読めば

確実におお~っと思って、懐かしさがこみ上げてくるシーン満載です。

たまには、小説の中でも

ゆったりとした時間を過ごしてみるのもいいかもしれません。
 

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