でいりいおくじょのBLOG

2019.10.27

読書日記「長いお別れ」

少しずつ記憶をなくして

ゆっくりゆっくり遠ざかっていくことから

アメリカでは、認知症のことをロンググットバイ、長いお別れと呼ぶそうな。

 

認知症になり、少しずつ遠ざかっていく父親と

介護する母親、そして娘たち

 

それを、決して悲観的感じではなく

むしろコミカルであったかい物語として書かれたのがこの本です。

 

「長いお別れ」(中島京子著 文藝春秋)

 

この手の話は、とかく悲観的になることが多く

読み進むうちに、ああ、いずれ私もこんな風に人生の終わりを迎えるのか

みたいな気持ちになりがちなので、

正直、あまり手に取ることはないのですが

 

今回、この本を読んでみようと思ったのには、いろいろ理由があって

 

そもそも、この小説の存在を知ったきっかけは

映画の予告編を見て

蒼井優さん、竹内結子さん、松原智恵子さん、山崎努さん

という素晴らしい俳優さんばかりで

このキャステイングだけで、とにかくどんな映画なんだろう、ってすごく興味がわいたんです。

 

そうしたら、たまたまこの映画のチラシがあって

この映画の原作が中島京子さんだという事を知り

俄然興味がわいてきたのでした。

 

中島京子さんといえば、

「小さいおうち」とか「妻が椎茸だったころ」とか「平成大家族」とか

読みました、読みました、

大好きな作家さんです。

 

更に

映画の方は、原作とは違う設定になっているという事を知り

それならば、映画を見る前に、とりあえず原作を読まねがと思ったのでした。

 

物語はこうです。

中学の校長先生を務めた昇平さんは7年前に認知症と診断され

やがて少しずつ言葉をなくし、記憶をなくしていきます

妻の曜子さんが一生懸命介護をしているのですが

やがて、その曜子さんにも失明の危機が

 

認知症の介護の大変さはもちろん

老々介護の危うさ

何とか、親の面倒を見たいと思いつつも

それぞれの暮らしで精いっぱいの娘たち。

 

多分、実際に介護をされている方が読めば

めちゃめちゃ共感できる話だと思います。

 

実は、この小説は、日本医療小説大賞を受賞しているので

ある意味、認知症患者と、それを取り巻く家族の状況が

本当にリアルにわかり、

そういう状況になった時、どんな選択肢があるのかとか

そういうこともすごく勉強になる小説なのです。

 

でも、この小説の本当のすばらしさは、そこではないような気がしていて

 

一番心に残った部分は

 

父の昇平さんは、言葉を忘れ、思い出も忘れ

妻という言葉も、家族という言葉も忘れ

やがて、介護してもらっている妻が誰なのかもわからないようになっていくんだけど

 

妻の曜子さんは思うの

“この人が何かを忘れてしまったからといって、この人以外の何者かに代わってしまったわけではない”

 

ここ、ここが、とっても大事なところだと思ったんです。

 

そうなんですよ、

昇平さんの頭の中から

少しずつ何かが消えていったとしても

昇平さんが昇平さんであることには変わりなくて

曜子さんと昇平さんが、これまで築いてきたもの

それは、決して消えることはない。

 

私自身、この小説がリアルに心に響くだけの

人生経験が全く足りないので、うまく感想が書けないのがもどかしいのですが

 

この物語の中の、どの立場にもなる可能性はあり

その時に、

選択肢はいろいろあることだけは理解できたので

それだけでも、やみくもに不安がらずにいられると思いました。

 

生きていれば、歳を取り

歳を取れば誰かのお世話にならないわけにはいかず

その時に、自分はどう生きたいか、何を大事にしたいか

そういうことを、きちんと考えねばと思えた本でした。

 

長いお別れ

コメント

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「送信」ボタンを押してください。

PageTop