でいりいおくじょのBLOG

2020.04.30

読書日記「最後の晩餐」

知識量と経験値に裏打ちされた

圧倒的な語彙量と文章のうまさに圧倒される一冊

 

「最後の晩餐」(開高健著  文春文庫)

 

向田邦子さんが、エッセイの中で

料理や食べ物の文章を書くのだったら

もっと、しっかり開高健さんの本を読んで勉強しておくべきだった

というようなことを書いておられるのを読んで

 

そういえば、このところ開高健さんの本を手に取っていないなあと思って

久しぶりに読み直してみました。

 

この本は「諸君!」という雑誌に昭和52年1月~昭和54年1月まで連載されていたものをまとめたもので

古今東西の美食を中心に、食にまつわるいろいろなことが書かれています。

 

この本は、これまでも何回も読んでいるんですが

読むたびに、あまりにすごすぎて打ちひしがれる本です。

 

とにかくすごい。

 

まず、ページに隙間なく書き込まれている文字量に圧倒され

その言葉と内容の、濃厚さに圧倒される。

 

もう何日もぐつぐつ煮込まれたフォンドボーを

更にぎゅっと濃縮したような感じ。

 

もう何回も読んでいるので

さすがに、最初の頃よりも、読めるようになったなとは思いましたが

だからといって、決して近づけたわけではなく

圧倒されてひれ伏している事には、変わりありません。

 

読んでも読んでも読みつくせないほど

描かれていることすべてが勉強になり、刺激になります。

 

今回読んで、あらためて思ったのは

開高健さんの食べることに対する強烈な枯渇感ですねえ。

 

戦争中のひもじさに加え

戦後になっても、食べるものがない状況を書いておられる文章があるんですが

その部分が、尋常じゃないんですよ。

 

最初は“空腹”状態なんですが

それが次第に“飢え”へと変わっていく。

“飢え”というものを経験したことのない私から見ると

もう、想像できる範囲を超えていて、

読みながら、頭が真っ白になる。

 

この“飢え”の経験が、すさまじい食へのエネルギーになって

それが更に、食への好奇心とか、探求心とか、執着、執念になって

それが、文章全体を覆っている気がします。

 

だから、こんなすごい方なのに

金持ちになりたいとか

何か名声をえようとか

そういう感じが全くなく

その興味は、ただただ食と、文章を書くことに向かっていて

だからこそ、他の人にない、すさまじいエネルギーが炸裂するんでしょうねえ。

 

さて、本の内容なのですが

どの話も、知らないことだらけで、ホントにどれも興味深いことばかり。

 

例えば、フランス革命当時の食事が書かれているんですが

ヴェルサイユ宮殿の中では、ものすごいごちそうが毎晩毎晩供されており

その一方で国民の80~90%はひどい食事をしているんです。

 

どんな食事かというと

岩のように固くて黒いパンを、少しずつ削って

キャベツしか入っていないような薄い野菜スープに浸して食べる。

一つのパンを、大体1か月くらいかけて食べるそうな。

 

パンを削って、一か月くらいかけて食べるって

それも、水だけで煮た、スープとは言えないようなスープに浸して食べる

 

こういう、格差と抑圧されたエネルギーの中でこそ食文化は大きく花開くのだそう。

それはフランスでも中国でも、そうなのだと書かれています。

 

この部分を読むと

フランスの状況とは違うけれど

今、外出を制限して、日々家の中で食べることを工夫している状況って

これまでとは違う、食の形を生み出すかもって思ったりします。

 

人は順応しつつ、変化し

枯渇感を、別のエネルギーに変えて新しいものを生み出す。

 

この他にも

美食家の皆さんが集まって

美味しいものを食べる会を開いた話とか

(これに出てくるあんこう鍋の描写が秀逸です)

 

戦中の食事を再現して、食べた話とか

ジンギスカンについて、あれこれ考察されている話とか

 

どれも、これも、本当に勉強にあることばかり。

 

途中、開高健さんが体調を崩され

ご自分は食べずに、美食会の食事について書かれている記事もあり

それは、読んでいて、切なくなったり、驚愕したり

でもやっぱり、すごいです。

 

いずれにしても、読み終わった後は

自分の無知さと、ボキャブラリーのなさと

文章力のなさに打ちひしがれつつも

 

頑張れ私と、思っている私もいました。

ただただ、あほみたいに自分を鼓舞するしかできないのだけれど。

 

読み応え十分。

このGWに、一読してみてはいかがですか?

 

2020年4月29日最後の晩餐

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