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娘が読んでいた本を借りて読むの巻き、第二弾。
「星の子」(今村夏子著 朝日文庫)
著者の今村夏子さんは
「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞されたことで注目されている作家さん。
本当は、「紫の~」を読みたいと思っていたんだけれど
娘が「星の子」を読んでいたので、とりあえず、こっちから読むことにしました。
軽い気持ちで読み始めたのですが
いざ読み始めると、
なんか、心の中がざわざわして、つづきを読まずにはおれない感じ。
何だろう、この感じ・・。
ざっくりとしたストーリーを書くと
ある普通の夫婦。
娘(ちーちゃん)が病弱だったことがきっかけで、新興宗教にのめり込んでいくんです。
ちーちゃんは、幼稚園、小学生、中学生と成長していくんだけれど
その間に
親戚のおじさんが、宗教をやめさせようとしにきたり
宗教が原因で、お姉ちゃんが家出をして、そのまま帰ってこなかったり
同じ宗教に入っている人たちとの交流や、その集まりの中でのいろんな出来事や
学校の中の友人関係や、いろんな男の子を好きになったり
ちーちゃんの目線で語られていきます。
ちーちゃんの家は、家族みんな仲良しで、よく話をして、
お父さんとお母さんは、温和で、ちーちゃんのことを大事に思っているのだけれど
お母さんとお父さんは、普段、河童みたいな緑色のジャージを着て
からだの中の悪い“気”を取るために、頭の上にタオルをのせていて
公園のベンチで、そのタオルの上から、水をかけあいっこして
不審者と間違われたりしているんです。
ちーちゃんにとっては、
それが、お父さんとお母さんの普段の姿だし
小さな頃からずーっとそうだし
その宗教の信者の集まりの中では、それはちっとも変な事じゃない。
ちーちゃんが、物語の中で少しずつ成長して
やがて、中学3年生になり
少しずつ、自分の家族が、他の家とは違う事に気づき始めます。
この小説を読んで、まず思ったことは
自分の持っている価値観というのは
いったいどこで、どんな風に形作られてきたんだろうという事でした。
子供の時は、親のやっていることに疑問を持つこともなく
そこで植え付けられた価値観がすべてです。
けれど
ある時、親とは違う価値観に出会うことが必ずある
そこが、大人になるためのスタートなのかもしれません。
子供は大人になっていく過程で
精神的に、親の存在を破壊していく、というような話を読んだことがありますが
この話は、そのちょうど入口のところ。
一人の女の子が、成長の過程で
精神的に親離れをしようとする一瞬を描いた話なんだと思いました。
薄皮をはがすように、手探りで、不安な気持ちをいだきながら
大人になろうとしている、まさに、その瞬間です。
同じところにいても、同じ家で暮らしていも、いくら会話があっても
すべて、同じように感じたり、同じように見えていたりするわけではない
親と自分は、別の人格なのだと気づく瞬間。
それが、最後のシーンなのではと思いました。
この小説の中では宗教でしたが
たぶん、もっと広い意味で、自分を形作る価値観の一つ一つを
自分の頭で考えられるようになることが親離れですね。
それにしても、ちーちゃんの目線で書かれているので
わかりやすい言葉で、
難しい表現も全く使われていないのに
こんなに深く、いろんなことが伝わってくることにびっくり。
読み終わった後も、じわじわ心の中に、いろんなものがうごめき
これから先、ちーちゃんはどうするんだろうと考え始めると
いろんなことをどんどん考えてしまいます。
自分がどんな風に大人になってきたのかを考えてみたり
自分の子育てを、もう一度振り返ってみたり
してみたい人におすすめの本です。
本当に、いい小説でした。
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