家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
話題の新書
「食の知られざる世界」(辻芳樹著 新潮新書)
を読んでみました。
著者は、辻調理師専門学校の校長であり、
辻調グループの代表。
お父上の辻静雄氏は、日本を代表する調理師専門学校に養子婿に入り
その後、本格的なフランス料理を日本に移入し
日本のフランス料理を変貌させた人物。
世界的な料理研究家でもあります。
辻静雄氏については
「美味礼賛」(海老沢泰久著 文春文庫)
に詳しく書かれていて、この本を読めば
辻氏の半生だけでなく、日本で外国料理がどんなふうに変化し
オリンピックや万博などを経て、
日本という国が料理とともに国際国家へと変化していった様子を知ることができます。
その「美味礼賛」を読んだのは、もう随分前だったのですが
辻静雄氏がご子息を国際人に育てるために早くからイギリスに留学させる話は
物語の中に出てきていて、
すごいな~って印象に残っていたので
ああ、あのご子息だ!とすぐ思いました。
なんか知り合いの息子さんが立派になられたような(失礼!)感じでした。
さて、この『和食の知られざる世界』ですが
外食産業、食ビジネスのリーダーを育て
また、食のトレンドを作ろうとされている立場から
和食をどうやって世界へ発信していくか
世界に通用するにはどうすればいいか
その現状と可能性についてグローバルな視点で語られた本です
何でも世界の日本食のレストランの数はこの3年で2倍近くに増加し
従来の寿司だけでなく、ラーメン、カレーなどにも裾野は広がり
市場規模は2020年には最大6兆円規模にも及ぶと予想されているそう。
ところが
世界の大都市で生まれる和食レストランの経営者は日本人ではなく異文化の人が多いそうで
つまり、日本人による和食の発信で広まったのではなく
むしろ日本人とは異なる人々の味覚や食感が、和テイストの味付けや調理方法に馴染んだ結果なのだそう。
それでいいのか
和食がユネスコの無形文化遺産に認定された今
日本人が和食の素晴らしさを提唱し
日本人がアイデアや工夫を加えて、
日本人自身の声と感性と技で日本食を発信し
異文化の人々に受け入れられようにするべきだ
というのが、著者がこの本で言いたいことのようです。
現在世界の料理会を流れる大きな潮流は
味覚の簡素化
量(ポーション)の少量化
カロリーの低減化
だそうで、
その3つを兼ね備えている和食に、世界の料理会の流れは確実に向かっているのだとか。
そのために、どのような新しい取り組みをしているかと言うはなしは
たしかに知らないことばかりで、
へえ~、なるほどね~という感じでした。
けれど、あまりにも自分の生活とかけ離れている話だったので
和食でありながら、何処か異国の料理のはなしを読んでいる感じで
自分の生活との接点が見いだせず
読み終わった後も、なんだかちょっとぽつんと置いて行かれたような気分になったのも事実。
小さい頃から食の英才教育を受け
『吉兆」を始めとする、日本を代表する高級料亭の料理を食べまくり
更には世界の料理の味も知り尽くしたような
名実ともに一流のグルメでいらっしゃるわけなので
スーパーの食材を使い、家の台所で家族のために料理を作っている家庭料理研究家とは
根本的に、見えている世界が違うのは、当たり前といえば当たり前なのですが。
あっ、そういえば、著者の辻芳樹さん
ちょっと前に話題になっていた
『英国人一家日本を食べる』(マイケル・ブース著 寺西のぶ子訳 亜紀書房)
という本の中にも登場されていました。
この本はイギリス人ジャーナリストが日本へ来て日本食を食べまくり
イギリス人の目と舌を通して感じた日本の食と食文化について書かれた本です。
そのとき感じた違和感というか
イギリス人から見たら、こんなふうに感じるんだと言うような、
自分とは違う感性というか
ちょっとした疎外感というか、アウェイ感というか
その本を読んだ時に感じた、そういう感覚とちょっと似ているかもしれません。
日本の和食の良さを、いかに世界に発信していくのか
著者が担っている責任の重さと重要さは凡人にはわからないほどのものだと思います。
けれど、その一方で
世界に発信していくことと同じくらい
日本人が日本人に向けて発信していくことも、大事なのではと私は思いました。
和食は、日本人が昔から普通に食べてきた普通の食事でもあるわけで
家庭で作って食べる料理が、高級料亭の料理より下等だとは思えません。
外国の人が日本の和食を絶賛しても
日本人が和食の素晴らしさをわかっていなかったり
和食を次の世代に伝えてくことを怠れば
和食という文化はどんどん空洞化していく可能性もあります。
そう思うと
(この本に書かれていることとは、全然レベルも次元も違う話なのかもしれませんが)
日々食べている、普通のご飯というものを
これからも、私になりにきちんと守っていかねばとも思えました。
それは単に伝承ということではなく
時代やニーズにそって、ゆるやかに柔軟に変化させつつ
誰でもが実際に作って食べられるようなレシピや知恵を発信し続けるということ。
それにしても
味覚の簡素化
量の少量化
カロリーの低減化
この3つの流れは、確実に日本の家庭料理の世界にも入ってくるような予感。
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