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伊藤比呂美さんの新刊本
なかなか読む時間がなくて、ようやく読み終えました。
「道行や」(伊藤比呂美著 新潮社)
前著「たそがれてゆく子さん」では
ご主人がなくなられ、ちょっと元気がなくなったりしておられたりしたのですが
今回の本では、
カリフォルニアから、老犬を連れて熊本に帰ってこられ
早稲田大学の先生になられたところからの話が書かれています。
週の半分は東京
週の半分は熊本
かなりアクテイブにに動いておられる日々の暮らしのエッセイ。
内容はもちろん面白いんですが
今回の本は、なんといっても言葉の迫力というか、圧力がすごいです。
怒涛のように迫ってきます。
カリフォルニアでの英語の生活は
言葉の上で、かなりのストレスだったのではないかと思われます。
もちろん、ものすごく努力をされたとは思うのですが
詩人である伊藤比呂美さんにとって
日々の暮らしの中で
英語で細かい感情や情景を表現できないことのいら立ちや
そのちょっとずれた感覚に折り合いをつけながら暮らすことや
言葉に対するいろんなストレスは大変だったのではないかと思います。
相当の努力があったとしてもです。
伊藤比呂美さんの本は、ほぼ全部読んでいますが
今回の本は、
言葉の勢いが半端ないです。
日本語があとからあとから尽きることなく湧き上がっている感じ。
目に映るすべてのものを
まるでビデをカメラで撮るみたいに、日本語に置き換えて表現せずにはおれない
そんな風な文章です。
まるで、今まで外に出さないように押さえつけれていた言葉が
一斉に外に噴出したかのようでもあり
これまでの喪失感を一気に埋め合わせているようでもあります。
「道行や」というタイトルは
母がなくなり、父がなくなり、夫がなくなり、友人がなくなり、友人の犬がなくなり
そうして、今一人生き残って、
死に向かいつつ生きている
それを指して、道行やと言っておられるんだと思います。
サブタイトル
(ちくしょう)あたしはまだ生きてるんだ
これは、「パイヨン」という映画に出てくるセリフだそうで
脱獄囚が、捕まっても捕まってもあきらめずに、
さらなる脱獄をした時のセリフなんだそう。
これも、自分の周りで、親しい人がどんどんなくなり
この世から、みんな脱出しているというのに
自分はまだ、脱出できず(死なず)、この世で生き残っている
というような意味にとれます。
今回の本は
なんか、すごく深かったです。
ああ、私も、生きてんだなあ
って、読み終わった後、思いました。
「犬の幸せ」という
カリフォルニアから、伊藤比呂美さんと一緒に日本にやってきた犬の話なんですが
犬にもちゃんと心があって
寂しさや、嫉妬や、悲しみや、寂しさで
心の深いところで傷つくことがある、ということがわかり
めちゃせつなくて、泣けました。
なんか、ジーンと心に残る話でした。
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