家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
食べるということについて
あれこれ考えているうちに
日本とか、日本人とか、そういう境界線を取り払って
もっと広い視野で食べるについて考えてみたくなりました。
選んだ本は、ズバリ
「食べる。」
〈中村安希著 集英社〉
著者は世界中を旅し
簡潔な文章で綴るノンフィクション作家。
この本では、エチオピア、スーダン、ネパール、パキスタン、ルーマニア、といった
おそらく、一瞬その国がどこにあるのか正確には言えないような国々での
人との出会いと“食べる”ことが書かれています。
日本にいると
豚肉でも鶏肉でも、すぐに料理できるように切り身になっていることや
野菜は泥もついておらず、きちんと形が揃っていることや
野菜に虫がついておらず、もちろんは野菜に虫食いの後もないことや
食品売り場に小バエが飛んでいないことや
そんなことが、全部当たり前だと思ってしまうところがあります。
それが本当は、全く当たり前ではないのだということを思い出させてくれるのが
この手の旅エッセイやルポ風の読み物。
けれど実は、ずーっと前
辺見庸さんの「もの食う人びと」という本を読んだ時
自分の知らないところで当たり前に繰り返されている
食べる事の、あまりにも壮絶な現実を目の当たりにして
かなりのショックを受けてしまい
その後遺症からか、しばらくこの手の本は避けていたところがありました。
だから、読む前はちょっとドキドキしていたのですが
この本は、ジャーナリズムではないので、かなり軽い気持ちで読めました。
とはいえ・・・。
エチオピアでは
ゲロのように酸っぱい匂いがして、ボロ雑巾のような色をしているインジェラを食べ
台湾では臭い臭い臭豆腐に挑戦し
モンゴルでは、生まれて一度も野菜を口にしたことがないという紳士に出会い
スリランカでは、
ココナツの絞りかすにライムや青菜を混ぜた辛い辛いサンボルというサラダを食べ
パキスタンでは川魚の唐揚げをナンにはさんでかぶりつく。
ネパールではやぎの首切りの儀式に参加し
ヤギの血を炒って固めたものや、臓物の混合カレーを食べる。
そういえば、私、ヤギの血を固めたものを食べたことがあったのを思い出しました。
それは、沖縄で、ヤギ汁を食べた時のことでした。
ヤギ汁と一緒に供された赤いぷよぷよした豆腐のような食べ物。
それが、まさしく、ヤギの血を固めたもの。
野生の香り溢れる山羊汁が大きな丼になみなみとよそわれ
血の塊がお皿にドカンと出されたのとを
ぺろりと全て平らげた時は
女性でこれを平気で全部食べた人は、あなたが始めてだと、あきれられたけれど
私的には、別に無理したわけではなく
むしろ美味しく、頂いたのでした。
私って案外、順応性、あるかも・・・・。
自宅のテレビから得られる膨大な知識よりも
旅で得られるわずかな手触りにこそ真実がある
と、著者は書いていますが
確かに、ヤギ料理ひとつとってみても
テレビや本からだけではわからないことが、そこには確実にあります。
けれど、諸事情あって旅に行けなくても
こんな本を読むことによって、
実際に旅行した人が手探りで掴んだ真実のおこぼれを
家にいながら享受できるというのもまた事実。
別途の上の南京虫に悩まされることもなく
糞便まみれの便器に、息を止めてしゃがむこともなく
今まで見たことも聞いたこともないような料理の味を想像しながら味わってみる。
これもまた、本を読むことで得られる、大きな楽しみの一つだと私は思っています。
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