でいりいおくじょのBLOG

2012.06.17

饒舌なレシピ

今朝のNHK日曜美術館は
福田平八郎でした。
私は福田平八郎氏の「雨」をはじめてみた時は
今まで感じたことのないような感動が体中に走り
しばらくその絵の前でぼーっと動けないほどでした。
 
今日の放送では
もっと初期の頃の作品である
「鯉」とか「牡丹」や
有名な「漣」も紹介されていましたが
 
やっぱり私は、この「雨」が一番好き。
 
書かれているのは屋根の瓦だけで
そこにポツポツと降り始めた雨のしずく。
 
たったそれだけの絵なのですが
 
この絵の前に立つと
雨が降り始めた夏の昼下がりの匂いや温度や
ちょっと湿気のこもった空気や
駆け足で行き交う人の足音や
あちこちで洗濯物を取り込もうとして急いでいる人達の
ざわざわした気配や
 
そういった、普通の暮らしの中にある雑然としたものが
わ~っと溢れだし
挙句には
「あ、降ってきた、降ってきた」という人の声も聞こえてくるのです。
 
繰り返しますが
画面には、
屋根の瓦と、ポツポツ濡れた雨のしずくの後しか、描かれていないのです。
 
それだけしか描かれていないのに
この饒舌さは一体何なのか。
 
うまいのとは違う
いや、うまいんですけど、
テクニックとかそ、そういう上手さでうならせるというのとは違う
計算されたのとも違う
もっと深いところにある、何か。
 
願わくば
私もこういうふうにレシピを書きたいものだと思います。
 
シンプルで
どこにでもあるような、見慣れたような料理でありながら
そのレシピを前にすれば
それを食べている情景や、匂いや、食べる人の笑い声や
作っている人のワクワクした気持ちまでが伝わるような。
レシピを見るだけで
鍋の音や、湯気の温度や、美味しそうな匂いまでが伝わるような。
そして、すぐにでも作りたくなり食べたくなる。
 
どこにも力が入っていなくて
どこか懐かしくて
 
シンプルでありふれた料理は
最も簡単で、最も難しい。
 
手を伸ばせば、簡単に行き着けそうな気がするものほど
実は、手の届かないような遠いところにある。
 
福田平八郎氏も
日々のコツコツとひたすらデッサンを積み重ね
ものを見る目、見えないものを感じる心を養ってこそ
行き着かれた境地であることを思えば
 
私は、ようやくそういう境地があることがわかって
歩き出した子供のようなもので
 
でも、今日あらためて「雨」を見て
少しでもこの境地に近づけるように
日々野菜と向き合い
コツコツと試作を重ねることこそが
その先に行き着くための小さな一歩だと思ったのでした。
 

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