でいりいおくじょのBLOG

2015.07.20

読書日記 「火花」又吉直樹著 文藝春秋


ずーっと前から話題になっていたので

読みたいという気持ちがものすごくある一方で

手に取るのが何だか怖くて、ずっと先延ばしにしてきて

ようやく読むことができました。

というのも、

「東京百景」

「第2図書係補佐」

を読んで以来、又吉さんの内に秘めた感性というか

思考の深さというか、モノの見方というか

そういうものすべてにすっかり魅了されていて
 

だからこそ、小説を書かれも素晴らしい作品を生み出されるだろうとは思っていましたが

エッセイが面白くても小説になるとつまらなくなる方も、結構いらっしゃるので

この火花は読むのがずーっと怖かったのでした。
 

読んでみた感想。

一言でいうと、私はこの世界観、大好きです。

悲しくて、おかしくて、温かくて、やさしくて、残酷。
 

物語は、天才的なセンスを持つお笑い芸人の神谷

彼を尊敬し、弟子となる徳永。

この2人の生きざまを通して、

お笑いとは何かを描いた作品。
 

神谷の言葉の一つ一つに影響され、傾倒していく徳永。
 

漫才師が面白いことをするのは当たり前で、あらゆる日常の行動は漫才のためにあるという神谷。

人のまねではなく、相手によってお笑いの方向をかけるのもなく

ひたすら自分の面白いと思うことを貫いてこそ、漫才師であると。
 

漫才師とはこうあるべきであるということを目指すのではなく

自分の中にある漫才師とは何かということに忠実に生きる

それが、神谷の目指す漫才師であり、笑いの世界。
 

最初は、その言動に一つ一つに虜になっていく徳永だったが

現実の生活の中で
 

観客に受けるということ

面白いと評価されること

仕事のオファーが来ること

ただ自分が面白と思うことをやっているだけでは

漫才師として、お金を稼ぎ、暮らしていくことができない。
 

女の人にお金を貢いでもらい

消費者金融で借金をして暮らしながらも

理想のお笑いを追い求める神谷の生き方と
 

漫才師として自立したい徳永の間に

少しずつ、ずれが生じ始める。
 

これ以上書いてしまうと、ネタバレになってしまうので

あとは、ぜひ読んでください。
 

この小説の素晴らしいと思ったところは二つあって
 

一つには、お笑いというものの本質に

あっちからも、こっちからも、いろんな角度から光を当て

笑いというものと、悲しさや残酷さというものが紙一重にあるということを示しているところではないかと思います。
 

悲劇と喜劇は同じわっかでつながっているということを

見事に表現したところに、私は深く感動しました。
 

もう一つは、プロとはどういうことか

いろんな角度から考えさせされたところです。
 
 

「火花」の中で、

神谷が、泣いた赤ん坊に対して蠅川柳を言い続け

徳永はいないいないばあをやるシーンがあるんだけれど
 

その徳永に対して、神谷は、それ面白くない、という。
 

面白いとか、面白くないとかという自分の感覚と

赤ちゃんが面白いと思う感覚。
 

赤ちゃんの感覚を優先して、

自分は面白くないなと思っても、赤ちゃんを笑わせるために、いないいないばあをやる、

これもまた、プロであるためには必要なことでなはいか。
 
これは大衆に媚びることではないはずだ。
 
あくまで、プロの漫才師にとって、笑いの目的は誰かを笑わせることであり
自分が面白がることではない。 
 

自分が面白がることを最優先するのなら

プロではなく趣味でいいのだから。
 

そのことがわからないことが神谷の悲しさで、哀れさ。
 

これをもっと大きな世界に置き換えてみた場合

大衆の求めるものにどこまで迎合してもいいのか

どこの一線を変えたら大衆に媚びることなのか

いや、むしろ媚びるのではなく、大衆を喜ばせることこそが目的だと割り切りべきなのか。
 

プロとして、自分の守るべき矜持はどこにボーダーラインがあるのか。
 

例えば、これを料理の世界に置き換えてみると

すごくマニアックな調理法で

誰もやったことのない食材や調味料を組み合わせて

誰も食べたことのないような味を作りあげる。
 

最初は、すごいですね、とか

こんな料理見たことない、初めて食べる味

みたいな評価を、もしかしたら得られるかもしれない。
 

けれど、料理研究家のプロなら

大衆の求めるものを提供することこそが、最優先事項のはず。
 

大衆のニーズの応えつつ、いかに自分らしさを盛り込めるか。
 

同じようにいないいないばあをしているようにみえても

自分らしい、いないいないばあで赤ん坊を笑わせられたなら、

それこを本物のプロなんだと思う。
 

この物語の中には

いろんな意味で考えさせられることがたくさんあり

自分の料理の世界観についても、いろんな角度から見直してみたい気持ちになった。
 

芥川賞をとったから素晴らしいのではなく

そういうこととは関係なく

一読の価値のある小説だと、私は思います。
 

記者会見の時、又吉さんが

今後の活動について、100%芸人をやりつつ小説を書くと言い切っておられましたが

それでこそ、又吉さん!!と、テレビの前で拍手喝采したのでした。
 
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読書メーターに、としちゃんというネームで読んだ本の感想を書いています。
本を読む楽しさをお伝えできればと思っています。
 

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