家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
なんとも不思議なエッセイを読みました。
それはまるで、遊園地のアトラクションの
鏡の家とか、比率が微妙におかしい家とか、地面と天井の位置がゆがんでいる家とか
そういうところに迷い込んだような感じ。
「ねにもつタイプ」(岸本佐知子著 ちくま文庫)
著者は多くの本を手掛けている翻訳家です。
読んでいると、最初は普通の日常を描いておられるのかと思いきや
途中から、微妙に歪んできて
これはいったい、現実の話なのか、あるいは空想の物語なのか
なんか微妙なよじれの中に投げ出されて
何とも言えない気持ちになるんです。
読んだ後、なんかおさまりの悪いベロンとしたものが心の中にこべりついて
それが、どうしようもなく気持ち悪かったりするんだけれど
なぜか読むのをやめられない。
例えば
夏休みに住み込みで働いた寮にいたおばさんの話。
その人は食事から掃除まで一切取り仕切っているんだけれどなんとも不気味なんです。
友人が、ある日早退して寮に帰ってみると
そのおばさんが全裸で立っていて
その友人に気づくや、あらどうしましょう、と慌ててテーブルの周りをぴょんぴょんしたとか
週に2~3回必ず、食卓にある魚が出てくるんだけれど
腹に一本線のようにうろこがついていて
そこをおはしで切ると、ぞろぞろとめだまがでてくる・・・。
ぎゃ~~~~~~!!
きもちわるい~~~~~~。
そのおばさんはいったい何者なのか。
めちゃ気になるのに、それ以上の答えは書いてないの。
輪郭線だけが妙にはっきりリアルに描かれているのに
その内側は、ボヤンとしている。
そんな、アンバランスな気持ち悪さがどよ~んと心の中に残る。
また別の話では
トイレットペーパーを買ってきたら
前に買ったトイレとペーパーが一つだけ残っていて
それを奥にやって、新しいのを入れたら
その押し込んだトイレットペーパーから
「あんまりだ」「覚えてろ」「呪ってやる」
という声が聞こえてきたとか。
(これ、ちょっとわかる気がする)
また、別の話では
仕事しながら、おひる何を食べようかと考えていて
そうだカレーが残っていたから、あれを食べようと思い
カレーカレーと思いながら仕事をしていたら
そうだ、ご飯、全部食べちゃってなかったんだった
という事を思い出し
みるみる気持ちが沈む。
けれど、そうだパンを食べればいいんだと気づき、
ちょっと気持ちを持ち直したんだけれど
食べようとしたら、パンがかびていた
・・・・。
って、それがどうした、っていう話なんだけれど
心に、じわっと来る。
パーっとした華やかさとか
涙が出るような感動とか
そういうのは、まったくない
何とも奇妙な世界に迷い込み
なんかじわっとつぼるエッセイ。
はっと気が付いたら、
そこから抜け出せなくなっている。
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