でいりいおくじょのBLOG

2023.02.06

読書日記「天路の旅人」

ちょっと前のクローズアップ現代に

沢木耕太郎さんが出ておられました。

 

沢木さんと言えば「深夜特急」!!

香港からロンドンまで、

約一年かけ、いろんな乗り物を乗り継いでの旅行記です。

 

昔、かなりハマりました。

 

そんな沢木さんが、新刊を出されたとのこと

 

「天路の旅人」(沢木耕太郎著 新潮社)

 

さっそく読んでみました。

 

時は第二次世界大戦末期

日本と中国の関係が、かなり危うくなっている時代

日本の密偵としてラマ僧に扮して中国に入り

旅をした西川一三が主人公です。

 

密偵として旅をしているわけですから

常に危険な状況

見つかれば即処刑です。

 

しかし、それだけではない、様々な困難なことが次から次へと降りかかってきます。

 

そんな中、戦争が終結したといううわさが入ってきます。

 

日本はいったいどうなっているのかもわからないまま

それでも旅を続ける西川。

その旅は、結局足掛け8年にもなります。

 

その旅の軌跡を描いたのがこの本。

いやあ、読むだけでもしんどい、長いです

 

途中で戦争が終わるわけですから

密偵としての使命が突然なくなり

って言うか、

日本が負けたわけですから

その時点で、もうそこにいる意味はないわけだし

もちろん、助けを求める場所は全くない状況です。

 

そんな状況にあってもなお、旅を続けることを決意する西川。

 

日本人であることを隠しながら

行く先々で、托鉢をしたり、簡単な労働をしたりしながらの旅です。

 

日本に帰る、という選択もあったのに

西川が旅をつづけた理由は

まだ見たことがないものを見てみたい

という思いでした。

 

最終的には

もう一人いた日本人密偵の密告により

日本に強制送還されてしまいます。

 

西川にしてみたら

日本に帰るよりも旅を続けたかった

もっともっと知らないものを見たかったようで

無念さが伝わって、胸が痛くなりました。

 

日本に帰ってきてからの西川は

最終的に岩手の化粧品店の店主として

静かに暮らす道を選びます。

 

そこからは

一年364日、正月以外は休まず

昼は、おにぎり2個とカップラーメンを食べ

夜は2合の酒を飲んで帰る。

判で押したような毎日を過ごします。

 

西川を密告した日本人は

日本に帰ってきた後

戦争の功労者として報酬を受けとり

密偵として過ごした日々を本にし

その知識により大学教授の職を得ます。

 

西川はというと、何の報酬もなく

旅の旅行記を本にしたいという思いで書き留めた原稿も

出版してくれるところがありません。

 

人と比べたらいけないとは思うけれど

やっぱり、この辺、

西川の胸中を思うと、苦しくなります。

 

そんな暮らしをしている時に

沢木耕太郎さんが、西川のことを知り

話を聞いたことが、これが本になるきっかけとなりました。

 

けれど、すぐには、本にならないんです。

いったん暗礁に乗り上げ、そのまま10年以上がたちます。

 

西川が亡くなったというニュースを沢木さんが知ったことで

また運命の歯車が動き始めます。

 

そこから、めちゃめちゃいろんなことがあり

本当に、運命とか奇跡としか言いようのないようなことが起こり

 

沢木さんがこの本を完成されるんです。

沢木さんが西川と出会ってから

結局25年の歳月が流れました。

 

この本を読んで、

西川の人生は何だったんだろう?

ということを思いました。

 

もっと見たい、もっと知りたい

それしか望んでいないのに、それがかなわず

日々書き留めた原稿も、思うように本にならない

 

亡くなる前の、最後の言葉は

もっといろいろな所に行ってみたかったなあ

 

西川が、幸せだったかどうか

それは、第三者には推測できないし、そういう判断をするべきじゃないと思います。

 

ただ

 

人間の幸瀬というものが

きわめて単純で小さなことで成り立っている

 

という言葉が、すごく印象的でした。

 

人は困難に向かっている時

目の前の困難をどう乗り越えるかという事だけに専念すればいい

本当に不安になるのは困難を乗り越えた後。

次はどんな困難な事が起こるのか、

そのことに心乱れ、その方がくるしい。

 

今日食べる分と

今日寝る場所があれば

それで幸せだ。

 

なかなかそういう境地には至れませんが

生きるってことの

なにかたいせつなものがそこにあるように思いましたね。

 

手に入れたら不安になる

何かを欲して行動すること

まだ見ぬ何を知るために前に進み続ける事

人生の醍醐味は、そこにあると西川が言っているのだと思います。

 

到達してしまう事よりも

その過程の中にこそ大事なものがある。

 

生きる意味もまた

そこにあるように思います。

 

とてつもなく長い旅の話ですが

なんか、それ以上の深いものを考えさせてもらえる本でした。

天路の旅人

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