家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
山歩きも経験もない女性が一人で
パシフック・クレスト・トレイル(PCT)に挑む映画(現在公開中)を見ました。
原作は、実話をもとに書かれたもので
それだけに、鬼気迫るものがあります。
主人公シュリルは、愛する母の突然の死を受け入れることができず
ドラックにおぼれ、結婚生活を壊し、自暴自棄な生活をしたのですが
たまたま手に取ったパンフレットに心動かされ
自らの人生の再生をかけてPCTに挑むことを決意。
PCTは、メキシコ国境付近からからカナダ国境まで
西海岸沿いの景勝地を回っていくトレイルで
まったく舗装されていない砂漠や山道や崖を越えていかなければなりません。
男性でも、途中リタイアしてしまうような過酷な環境の中
女性一人で3か月間かけて制覇し、最終的に自分自身を取り戻していくというストーリー。
映画の中では
雄大で美しい大自然の景色と、その中を悪戦苦闘しながら進んでいくシェリルの姿の間で
自分の幼いころの家族の思い出、成人してからの母の生き様、
母の死後、自暴自棄になって荒んでいく自分の姿が、
フラッシュバックしていきます。
想像を絶する困難の中に打ち勝って、前に進み自分自身を取り戻していくシュリルの姿は
確かに感動に値するのですが
私はというと、26歳のシェリルの自己再生のストーリーよりも
強く心に残ったのは、むしろ母親の方でした。
酒乱で暴力的な夫との離婚後
女手一つで、自分と弟を育ててくれた母親は
貧しい生活の中でも、いつもにこにこして、やさしい。
シェリルが、あんなお父さんと結婚してお母さんは不幸だったねと言っても
そんなことはないわ、だってあなたたち2人を授かったから。
とにっこり笑うような人。
シェリルが大学生になった時には
自分も猛勉強して同じ大学に入り
学ぶことは、なんて楽しいことなの、と娘に話す。
学びながら日々の仕事が忙しくても
息子が友達を連れて家に帰ってくれば、にこにこして夕飯を作ってあげる
シェリルと、そんなに忙しいのにごはんなんて作ってあげなくてもいいのよ、といっても
いいの、いいのと言って、やっぱりにこにこしてご飯を作る。
そんな母親に、突然のがん宣告。
子育てが一段落して
母親から一人の人間として、対等に子供たちと向き合っていけるという矢先の死の宣告。
母親はどれほど悔しかったことだろう。
最高の自分でいること、最高の自分を維持する方法を教えてあげたい
と母親が言っていたけれど
それは多分、言葉ではなく、自分自身の生きる姿勢や生きざまを見せることだったのではないかと思う。
なのに、それがかなわない。
シェリルにとって、母親は常に人生の指標だったはずで
母のように生きていけば、自分もあんな風に素敵な女性になれると信じていたはず。
ところが、突然目標を失って、どう生きればいいのかわからなくなったのではないのかな。
美しいものの中に身を置きなさいといった母親の言葉を胸に
大自然のPCTに挑むシェリル。
けれど、本当に美しいものは、もしかしたら人の心だったかもしれない。
この1600キロの旅の中で
真面目に努力しても、どうにもならないことが起こったし
何も悪いことなどしていないのに、理不尽なことも起こった
けれど、いつも最終的には誰かのやさしさや温かさが彼女を救った。
美しいものの中に身を置きなさいという言葉は
もしかしたら、いい人との出会いがあれば、一人でも生きていけるといいたかったのかも。
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この映画を観終わった後、思い出したのは東京にてできたころの自分。
何もかもうまくいかず、才能もお金もなく
真面目にやっても、いいこともなく
努力しても、成果は出ない。
けれど、子供たちの前では、いつも楽しいことを考えて
人生は、いいことばかりじゃないけど
思い通りにいかないこともたくさんあるけど
楽しいことも、こんなにたくさんあるじゃないということを伝えたくて
できる限りにこにこして過ごそうと思ったあの頃。
シェリルの母親のように。
努力しても努力しても、結果が出なくて
理不尽ななこともたくさん起こって
苦しくて辛くて悲しいこともたくさあるけど
毎日、まじめににこにこして生きていれば
消して希望はなくならないことを、教えたかったのでした。
実際、そうして過ごしているうちに
手を差し伸べてくれるたくさんの心優しい人たちとも出会えました。
シェリルの母親は、45歳の若さで亡くなってしまったけれど
私は、まだこうして生きています。
ならば、自分の生き方を通して
まだまだ、たくさんのことを子供たちに伝えられる
私の生き方が、子供たちの生きる指標になる
そんな生き方をしなければね。
どれほど多くの言葉よりも
それが、子供たちにとって、道なき道を歩く時の道しるべになるかもしれないのだから。
この映画の本来の趣旨とちょっと違ったかもしれませんが
母親として、子供たちに伝えたいこと、残してあげたいこと
その一番大事なことを再確認させてもらった映画でした。
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