家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
今日は日比谷シアタークリエで観劇です。
こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」
このお芝居には、思い入れがあって
公演が決まってから、ずーっと楽しみにしていました。
というのも、大学生の頃お芝居をやっていて
あの当時、夢中になっていた作家さんの一人が井上ひさしさんだったのです。
直木賞を取られた手鎖心中
道元の冒険では、日本の宗教を面白おかしく教えてくださったし
イーハトーボの劇列車では宮沢賢治
藪原検校や唐来参和など、井上ひさしさんの本のおかげでたくさんの事や人物を知ることができました。
その井上ひさしさん作品を上演している劇団がこまつ座で
あの当時、私のあこがれの劇団でもありました。
この頭痛肩こり樋口一葉も
あの当時、何度も何度も読んだ本の一つ。
舞台は明治23年から31年まで
樋口一葉19歳から死後2年目までの、毎年の盆の16日が舞台。
元は士族であった樋口家。
父と兄を失って樋口家の当主になった樋口夏子(一葉)が
小説を書くことで一家を養うさまを描いています。
明治23年といえば、明治維新の後、世の中はまだまだ混乱の時代
あらゆる価値観がひっくり返って、定まらず
武士は落ちぶれ、落ちぶれた武士たちの始めた商売も先行きが見えない。
世の中の価値観が大きく変わったはずなのに
女の運命は、一緒になった男で決まることに変わりない。
女性がお金を稼げる仕事といえば、裁縫くらいしかない時代に
文筆業こそが女が一人でお金を稼ぐには最もいい仕事だと気づいて
小説を書き始める夏子(一葉)
金持ちの男と結婚すれば幸せか
でも、そんな幸せも男次第。
捨てられれば、あっという間に吉原の遊女
男社会の中で、男の価値観に翻弄される危うさは妻も遊女も同じ
いずれにしても、女に選択肢はない。
どんな運命も受け入れるだけ。
けれど小説でお金を稼ぐことはちがう。
男社会で、男の価値観に翻弄されることはない。
実は、朝井まかてさんの「恋歌」を読んで
樋口一葉のお師匠さんである中島歌子という人も
幕末の水戸藩の騒動で夫を亡くしたあと
歌の世界で成功をおさめて、一財産を築かれたのはすごいなあと思うけれど
結局は、鍋島家の奥さまや皇后など、男性が作った社会の上層部の女性に歌を教えることで
成功されたわけで
あの時代、それはそれですごいと思うけれど
樋口一葉の価値観に照らし合わせたら
やっぱり、男性社会の危うさからは抜け出ていないのではないかと思えます。
(恋歌の中に樋口一葉が出てくるし、今回のお芝居の中でも、中島歌子の名前が出てきます)
中島歌子はあくまで、古い日本の価値観の中で生き抜いた人で
樋口一葉は、新しい女性の生き方を自ら実践した人
そういう意味では
樋口一葉が本当の意味で
女性が自立して生きるという、全く新しい一歩を切り開いた人。
最後に、
妹の邦子が、大きな荷物を背負って、よたよたしながら立ち上がり、一歩踏み出そうとするシーンは
ああ、邦子も裁縫という自分の力で、自分の未来を切り開いていくんだなと思えて
胸がいっぱいになりました。
よたよたしながらも、大きな荷物を背負いながら一歩を踏み出す。
大きな荷物は、その先の道の険しさや、待ち受けている苦しみを意味しているのだろうけれど
それを全部背負って、よたよたしながらも一歩を踏み出したところに、大きな希望を感じて涙が出ました。
女性が望むものは、決して大それがものではなく
普通にごはんが食べられて、甘い麦湯が飲めて、家族が仲良く暮らせて
そんな、ささやかな幸せなのだということ
そのために、よたよたしながら前に進んでいるのだと思うと、また涙が出ました。
頭痛肩こり樋口一葉は、ストーリーも最高にいいのですが
テンポのいいセリフや
途中に入る歌もおもしろく、
また、今回、主役の永作博美さんはすごくかわいい樋口一葉を演じておられたし
わきを固める、
三田和代さん、熊谷真実さん、愛華みれさん、深谷美歩さん、若村麻由美さん
皆さん実力のある女優さんで
面白おかしく、テンポよく
本当に、素晴らしかったです。
もし、東京は8月25日まで
そのあと、関西や九州のほうでも公演があるようです。
もしも時間と場所がうまく合えば、
本当におすすめのお芝居です。
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