家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
料理のレシピを見ていて
こんなにたくさんの煮汁が必要だろうか、と思うことがしばしばあります。
たしかに、たっぷりの煮汁で煮るというのが、昔ながらの煮ものの基本。
けれど、時代とともに、使う道具も、作る量も味付けの好みも変化しました。
濃い味の煮ものをたくさん作って、煮返しては毎日食卓にだし
それをおかずにたくさんご飯を食べる、というのが
かつての典型的な煮物のスタイルだったと思いますが
今は、作る量もうんと減ったし、冷蔵庫だってあるわけだから
保存のために濃い味に必要もなく、
むしろ健康のために薄味で煮たほうが好まれるようになりました。
それならば、煮物の作り方も、昔と違ってきてもいいのではないかと思うのです。
そこで、私が一番気になるのが煮汁の量なのです。
「大正・昭和初期の家庭料理の本」家庭惣菜料理十二か月 (砂書房)
という本が手元にあります。
この本は雑誌「婦女刊」昭和6年新年号の付録を再編集してまとめたものなんですけど
この中で紹介されている煮物を丁寧に見ていくと共通する特徴があります。
それは、たっぷりの煮汁に具材を入れ、落し蓋をし
煮汁が1/3になるまで煮詰めて仕上げていること。
以前フライパンのふたはつい最近までなかったという話を書きましたが
昭和の初めには、鍋のふたもなかったんですね。
落し蓋だけで煮ていくとなると、煮汁は蒸発するし、熱効率も悪いので
たっぷりの煮汁に具材が浸かっていることが大事になりますね。
そうでないとなかなか柔らかく煮えないし味もしみこみません。
鍋のふたがなかった時代には、たっぷりの煮汁がないと煮物が作れなかったわけです。
ここで分かったたっぷりの煮汁を使る理由。
大きく分けて2つです。
1.食材を軟らかく煮る
2.食材の中までしっかり味が染み込ませる
では、これを現在に置き換えて考えてみるとどうなるか。
まず一つ目。煮汁が少ないと具材を柔らかく煮ることはできないか。
今ではぴったり閉まるふたのついた鍋がありますね。
フライパンでふたをして煮ものを作ることもできます。
ということは、ふたをして蒸し煮にすれば、
煮汁の蒸発を防げるし、熱もまわるので
少ない煮汁でも問題ありません。
2つ目。中まで味をしみこませる。
実は、煮物には2種類あって、
一つは含め煮。
たっぷりの煮汁の中に浸しておくことで、じわじわ味をしみこませる煮物です。
(たとえばおでんとか、薄味で煮た厚揚げと大根の煮物とか)
もう一つはこってりと濃い目の味を煮からめる煮物
(肉じゃがとか、筑前煮とか、里芋の煮っ転がしとか)
含め煮の場合は、煮汁の中で味をしみこませるので、ある程度の煮汁の量は必要です。
でも含め煮って、おでんはともかくとして、たっぷりの煮汁に浸して味を含ませるような料理って、どちらかというと料理屋さんの仕事ですよね。
家庭でよく登場する煮物って、どちらかというと後者のほうじゃないですか?
肉じゃがや煮っ転がしみたいに、こっくりと濃い味に仕上げる煮物。
こういう煮物に関しては、
私は中まで味をしみこませないほうがいいのではないか、と思っています。
つまり、表面だけに濃い味をからめるだけで、わざと中まで味をしみこませない。
そうすることによって、しっかりした味を楽しみつつ、
中に味が入っていない分塩分をぐっと減らせるし、
素材のおいしさを味わくこともできます。
うんとヘルシーでおいしい煮物になるのです。
しかも、たっぷりの煮汁を1/3量になるまで煮詰める昔ながらの煮方って
味をピタッと味を決めるのが難しくないですか?
最初に煮詰まった後のことを計算して調味料を入れるわけだから、
経験がないと、なかなか予測しにくいですよ。
その点、最初から少ない煮汁で蒸し煮にして最後にがーっと味をからめるやり方なら
最初にちょうどいい味付けにしておくだけでOK.
最後にちょっと火を強めて、がーっと煮詰まればちょうどいいちょい濃い目の味になって、失敗なくドンピシャのおいしい味に決まります。
もちろん、必要な調味料も少なくて済むし
煮る時間も短くて済むし、塩分も控えられるから、
お財布にも環境にも体にもやさしい。
さて、ここで問題になってくるのが、使う道具です。
煮汁が少ないのだから、口径が小さくて容量の少ないほうがいいのではと思いがちですが
私は、ある程度口径がある鍋、またはフライパンのほうが使いやすいと思っています。
というのも、具材がなるべく重ならないで入るほうがいいからなのです。
具材が上下に重なって入ると、下に来ている具材と上に乗っかっている具材では、
熱の入り方も味の染み込み方も違いますね。
なべの底一列に並んではいっていれば、均一に熱も味もいきわたるので
煮あがりにムラがありません。
煮汁に使っていない部分に味が入るのかと心配になるかもしれませんが、
途中かき混ぜて上下返さば、まったく問題ありません。
そういう意味ではちょっと深さのあるフライパンなども、煮物にはとっても使いやすいと思いますよ。
(テフロン加工だと、あと洗いやすいし、中も見えやすいし、混ぜやすいし)
ということで、今日の結論です。
材料が全部浸かるほどの煮汁は、基本的には必要ない。
ぴったり閉まるふたがある鍋、またはフライパンを使えば
少ない煮汁でおいしい煮ものができる。
煮物は、中まで味をしみこませないで
表面に濃い味をがーっと煮からめるのがおすすめ。
短時間で作れるだけでなく、減塩効果もアリ。
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今日の「日めくりレシピ」は「厚揚げといんげんの梅煮」
くたっと煮えたいんげんと厚揚げの相性はばっちり。厚揚げを1センチくらいに切ると、短時間で味がからみます。
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コメント
はじめまして。煮物を作っており、改良としようとしていたら記事が出てきたので読まさせていただきました。
沢山の煮汁で弱火でゆっくり煮る、
のと
蒸し煮をして最後に味を煮からめる、
実際にどれぐらいの時短があるのでしょうか?
あと、どちらの方が柔らかく煮ることができますか?
実際に試していらっしゃれば教えていただけると幸いです。
初めまして。
どれくらいの時短になるかというご質問ですが
鍋の口径や、何を煮ているのかというようなことでも違ってきますし
一概には言えません。
料理というのは、科学の実験とは違うので
たくさんの煮汁で煮る料理は、味が染みるまで時間はかかりますが
味が染みる間、ずーっとそばについているわけではないので
時短という事だけ比べられません
科学の実験ではないので
時間がかかっても、手間がかからなければ早いと感じたりするのではないでしょうか?
柔らかさも、何を煮るかによって違うので
なんともお返事のしようがありません。
私も若いころは、料理に答えを求めていましたが
きちんと答えが出ないところに料理の面白さがあると最近は思っています。
そこに、温かさや、やさしさや、料理の面白さがあると私は思っています。
温かさややさしさは必要ないと考えておられたら、きちんと答えられなくてごめんなさい。
バシッと答えを言いきることは簡単だけれど
いろんなことを知れば知るほど、言いきれなくなってくるのも、また料理の面白さだと思っています。