家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
舞台は大量の原爆が説かされて終戦を迎えた日本。
アメリカから最新技術HAVIが導入され、
その処置を受けると、その時点から年を取らない。
つまり永遠の若さを手に入れられるようになった。
事故やけがで死なない限り、若いまま生き続けられる不老不死の世界の出現。
一見、夢のような理想郷に思えるのだけれど
不都合な問題が同時に起こっている。
例えば、深刻な人口増加。
これを食い止めるために定められたのが「百年法」という法律。
つまり、不老不死手術を受けて100年たったら、
法により、強制的に命を絶たなければならないというもの。
HAVIが導入された当時、100年生きれば十分と思って納得していた国民
けれど実際、老いもせず年齢だけを重ねてみると
法によって強制的に命を絶たれることへの抵抗が生じ始める。
ここまでが、この小説のスタートラインです。
法により、命をコントロールされる社会。
命のタイムリミットが迫ってきた政治家たちは
法を変え、独裁権限で延命し
一般国民は、法を破って組織を作り
また、自暴自棄に陥った者たちは集団テロをもくろむ。
この物語は、本当に細かいところまで緻密に計算され構成され
最後まで、ストーリー展開もテンポよく
最後までページをめくる手が止まらないほどの面白さ。
けれど、それ以上に、自分ならどうするか、ということ
生きるということ、死ぬということの意味を、改めて考えさせられる本です。
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不老不死の手術が受けられるとして
自分は受けるだろうか、受けないだろうか
また、受けたとして100年たった時点で
国家のため、命の新陳代謝をさせるために、自ら死を選べるだろうか
法を破って生き続けたとして
仕事もなく、あらゆることに不自由や制限がある状態で
それでもなお、生き続けたいと思うだろうか。
見かけ上、年を取らないことで
親と子供という関係性が薄れ
家族というつながり自体、形骸化生かしてしまう。
子供が成長し、その分親が年を取ることで
親が子供を守り、育てていた関係から
子供が親に追いつき、やがて追い越し
今度は、子供は親を守り助けていく。
その力関係が変化していく中で
相手に対する慈しみや優しさ、尊敬も生まれる。
いや、これは家族だけのことではないですね
成長期には、あらゆるものをどんどん吸収し
何もかもが新しく、知ることや経験することが楽しくてたまらないものだけれど
ある時期から(たぶん人生の折り返し地点というのがあって)
それほど、新しいことも日々起こらず
毎日のルーテインの中で、同じことの繰り返しをするようになり
やがて、今度は、だんだん失われていくものが多くなる。
体力、やる気、記憶力、健康、好奇心・・・。
これが老化。
けれど、この老化があるからこそ、若い時の輝きを思い出せるわけで
輝いている若い人たちに、エールを送りたいと思えるわけで
また、失われていくことがあるから
今できることを大切にしようと思うわけで。
そう考えると、不老不死が、必ずしも幸せとは、私には思えません。
言い古された言葉だけれど
終わりがあるからこそ、今を一生懸命生きられる
けれど、その終わりは、法によって終わらされるのではなく
誰の力も及ばない、自分の持っている寿命によって終わりにしたい。
というわけで、不老老不死の手術を受けられるとしても
私は受けない。
それが、この本を読んだ私の一つ目の結論。
年を取ることで
失っていくものもたくさんあるけれど
得るものもたくさんあるはず。
かつて、あるカメラマンさんに言われた言葉を思い出します。
自分が仕事をさせてもらった恩返しとして
アシスタントを雇うことで若い人を育て、
自分の習得したことを次の世代に伝えていくのが
これからの自分の仕事。
私も、家庭料理研究家として、20年以上仕事をさせてもらい
このカメラマンさんの言葉は心に刺さります。
これまでに経験させてもらったこと
自分で見つけた料理のコツ、料理の楽しさや想い
これらをできる限り、次の世代に伝えていけるような生き方をしたいものだと
改めて思いました。
命への恩返し。
生きていることへの感謝。
命をバトンタッチするということ。
家庭料理を通して伝えていかないといけないことがある
私が伝えられることがある
これが、この本を読んで得た、もう一つの結論です。
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