家庭料理研究家奥薗壽子オフィシャルサイト
料理教室、特に子供料理教室をすると
料理をすることの原点に返れる気がして
教えているつもりが、教えてもらうことが多いなと思います。
うちの子供たちが小さな頃は
まさに、子供に料理を教えるということの全盛期で
テレビでは子供が一人で料理を作るような番組も大人気でした。
料理研究家として駆け出しだった私も
もちろん子供に料理を教えようと頑張った時期もありました。
けれど、途中から、自分のやっていることにすごく疑問を持ち始めて
例えば、教えられたとおりに、ジャガイモの皮がむける事とか
ハンバーグが上手に丸められることとか
サンドイッチの具が上手に重ねられたとか
そういうことは、もちろん大事なことだとは思うんだけれど
料理って、そういう事だけではないはずだと思うようになったんです。
特に子供に料理をさせる場合は。
料理は、学校の勉強とは違い
正解をおぼえることが、100点を摂ることが目的ではないと思うんです。
子供料理教室の時、私はいつも言うんだけれど
料理は、人と食べ物が仲良くなる手段であり
人を思いやることだと思っています。
つまり、出来上がった料理ではなく
野菜や肉や、魚などを実際に触ったり、匂いを嗅いだり
じっくり見たり、
食べているだけではわからなかったことを知ることによって
食材と仲良くなれる、それが料理のスタートだと思うんです
そうして、人が手を加えることで食材がどんなふうに変化していくのか
目や耳や鼻や手や、身体全体を使ってしっかり見たり感じたりすること。
それが、料理のスタートと思っています。
更に、こういう料理教室では
自分とは、やり方も、感じ方も違う人がたくさんいて
一つの料理を作って、みんなで分け合って食べるということで
自分とは違う感じ方をする人を認め合う事とか
お互いに譲り合う事とか、
誰かを助けてあげる事とか
ご飯をおいしくするための方法は
材料を切ったり加熱したりといった料理に手をかけることだけではないということを
感じ取ってもらえたらうれしいなと思っています。
料理研究家の仕事は、作り方や分量を伝えればいいとは思っていません。
料理の周りにある、何かそういう空気のようなもの
もっと心の内側に伝わるような形のない何か
そういうものを、レシピと共にお伝えしたいなと思っています。
コメント
奥薗先生
今日の日記を読ませていただいて、「マダム・マロリーと魔法のスパイス」という映画を思い出しました。
いがみ合っていた二軒のレストランがお料理を通して次第にお互いを理解し、認め合うようになり、最後には二つの文化(インドとフランス)が良い具合に融合していく…..現代のお伽話のような、とてもとても素敵なお話です。この映画を観て、真に優れたお料理は人と人の心に和合をもたらすパワーがある、と感じました。
我が家でも、先生の日めくりレシピでご飯作りをしていると、家族全員の笑顔が増えました。以前から決して料理が不得意でなかったはずなのに、何が違うのか….考えてみれば、日めくりレシピの言葉の一つ一つに、素材に対する先生の深い細やかな愛情がこもっている気がします。単に「「上手」に作ってくださいね」ではなく、まさしく「食材と仲良くしてみてくださいね、仲良くなったら、こんな旨味があるんですよ!」……というメッセージを、一つ一つのレシピから感じるのです。日めくりレシピのおかげで、食材に対する姿勢が随分変わりました。その変化がいつものお料理の味を変化させた(させつつある)のかもしれません。
私は長年心理職として仕事をさせていただく中で、食と心の健康に深い興味を抱くようになりました。子どもや大人が食を拒む時、あるいはどうしても受けつけない時は、その子やその人なりの感性や、思いや願いがあるのですね。ただ食べれば良い、胃袋に入れればいい、というものではなく。お料理やお食事は、自分自身の五感やペースを大切にしながら、大地と繋がり、他者と繋がる、本当にエキサイティングでマジカルな行為なのだと、先生の日記を読ませていただき再認識いたしました。
いつも本当にありがとうございます。
「マダム・マロリーと魔法のスパイス」、早速調べてみました。おもしろそうです。近いうちに見てみます。いい映画を教えてくださって、ありがとう。料理の力は口から入る栄養だけではないということを、ますます強く感じている今日この頃です。