でいりいおくじょのBLOG

2016.09.01

読書日記「コンビニ人間」

芥川賞受賞で話題になっているので読んでみました。

最初の一ページめ、コンビニ情景描写から始まるのだけれど

コンビニの「音」はもちろん、においが、温度や、空気の流れがものすごくリアルで
 

一気にコンビニに連れていかれる感じに圧倒されます。

「コンビニ人間」(村田沙耶香著 文芸春秋)
 

主人公の古倉恵子は、36歳、独身、コンビニアルバイト 勤続19年

小さなころから、代わっているといわれ続け

何が正しいのかわからないまま大人になった。

コンビニのマニュアルは、彼女にとって絶対的な正しさの基準になっている。
 

彼女を中心にストーリーは展開していきます

詳しい内容については読んでいただくとして
 

この小説に3つのタイプの人間が出てきます。
 
①   
自分の感覚は無視して、周りの人に合わせて発言し行動する、この古倉恵子

自分の感覚を信用していないから、すべてマニュアルと、周りの人の感情が、

行動の基準になっている。
 

②常識とか、普通とかを錦の御旗にして

そこからはみ出した人をことごとく見下していく親、妹、友人たち
 

③自分の価値観や考え方が絶対で、周りがそれに合わせてくれることを望み

それがうまくいかないと、すべてのかかわりを断って自分の世界に閉じこもる白羽。

思い通りにいかないことを他人のせいにして、不平不満ばかりで、結局何一つ行動を起こさない。
 

恵子は明らかに自分というものを放棄しているという意味で、自分の意思は全くない。
 

白羽は、自分の価値観を強烈に持ってい入るものの

それにに固執するあまり、周りとかかわれず、かかわることを拒絶しているので

これもまた、社会人として、存在していないのも同じ。
 

そうなると常識で物事を考えている親や妹や友人たちがまっとうな社会人で

恵子と白羽が、社会人脱落者のように見えるけれど

果たしてそうなのか。
 

結婚しているとか、正社員であるとか、

子供がいること、恋人がいることとか

普通であることや常識といわれているものって、あくまで一つの分類基準であって

それに入らない人を排除するためのものではないはず。
 

常識や、普通であることを大上段に振りかざす人というのは、

もしかしたら自分自身を大多数の中に入れ、多数派であるというだけで安心しているだけってことはない?

もしも、そうなら、そういう人たちもまた自分で感じたり考えたりすることを放棄していることと同じではないのかなあ。
 

そう考えると、この3つのタイプ、根っこのところではみんな同じじゃないかと思えてくる。
 

実は、先日娘と話をしているときに

娘がこんなことを言ったんです。
 

昔は、自分がこれが好きとか、こうしたいとか、自分の意思表示をはっきりしていたのに

最近、みんながいいようにしていいよっていうようになったね、って友人に言われる。
 

それを聞いて、私は娘も社会人になったんだなあと思ったんです。

社会に出たら、自分はこうだと思っても、黙ってみんなの意見に従うほうが

いろんな意味でうまく仕事が回ることってあるもんね。
 

大人になるっていうことは、ある意味、自分を殺して

そんな風に、本当は違うと思っていても、にこにこして周りと合わせることができるってことでもある。
 

たぶん、無駄な軋轢を生みたくないから

自分の感情なんて押し殺して、相手に合わせていることって多いんじゃないかなあ。
 

それが、いいことなのか悪いことなのか、わからない

いや、そういうことではなく

たぶん、そうすることが、今の世の中を楽に生きていくための

一つのテクニックであることは間違いない。
 

…とここで、コンビニ人間、古倉恵子を思い出す。
 

古倉恵子のように、周りの変化に柔軟に対応して変化し

変わっていないように見えつつも、実は速やかに変化してその場に対応している

そういう生き方って

本当は一番したたかで強くて、生き残れる方法なのかも。
 

そうか、コンビニ人間って、

最初は、何か社会に順応できない人間を指しているかのようなイメージで読み始めたのだけれど

実は、今の時代を一番したたかに柔軟に生き延びられるのは

そういう人たちだわ、きっと
 

その証拠に、コンビニはあらゆる町の、あらゆるところにあり

したたかに順応して、どんどん増殖し、目立たないけど確実にその存在を不動のものにしている。

いや、たぶん内情は、それぞれご苦労があるとしても

これから先も生き残り、増殖していくことは間違いない。

コンビニ化した人間も。
 

コンビニ人間。
 

自分がなりたいかといえば、なりたいとは思わないけれど

もしかしたら、自分も知らない間にコンビニ化していっているかもしれないと思うと

ちょっと怖くもある。
 

いずれにしても、いろいろ考えさせられる、面白い小説でした。
 

おすすめです。

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