でいりいおくじょのBLOG

2015.09.14

読書日記 「スクラップ・アンド・ビルド」(羽田圭介著 文藝春秋)

今回の芥川賞は「火花」が話題になりすぎていて

ちょっと、気の毒な気さえする本作。

「火花」を読んだら、こちらも読んでおかねばと思い、

ようやく読むことができました。

新卒で5年間務めたカーデイーラーの仕事を辞め

現在無職の健斗。
 

時々アルバイトをしたり、恋人と会ったり、行政書士の勉強をしているが

心身ともに絶不調。

けれど、ただ漠然とこのまま時間を過ごしていくことに

心の中では不安を感じている。
 

健斗は、母と祖父の3人暮らしで

祖父は、ほとんど寝たきり。

「はよう迎えに来てほしか、もうじいちゃんは死んだらいい」というのが口癖。
 

祖父は、様々な体の不調はあるものの

診断上は健康体で、すぐに命が危なくなるような致命的な病気はない。
 

ある時、健斗は苦痛や恐怖心なしに祖父を死なせてやることはできないかと考える。

方法は一つ、あらゆることを全てやってあげて

体や頭をできる限り働かせないようにさせ

使わない機能をどんどん退化させれば、穏やかに衰弱して死ねるのではないか。
 

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この小説のタイトル、スクラップ・アンド・ビルト

の意味を考えながら読んでみると
 

失業者である健斗、寝たきり老人の祖父をスクラップと言っているよう。

どちらも社会からはじきだされた存在。
 

祖父の話し相手になれば、自分も何か役に立つのではないかと思った健斗。
 

けれど、やがて本当は

祖父の中に同類のにおいを感じ

何もしないで寝ている祖父と自分は違うのだ

自分は、まだ世の中に役に立てるのだということを認識したかったのではないか

と私は思う。
 

体力をつけ、筋力をつけ、将来に向けての勉強もし

祖父の話す堂々巡りの話を辛抱強く聞き

わがままにも対応してあげる。
 

表向きは、使わない能力を劣化させて、安楽死させることをもくろんでいるように見えつつ本心は、優越感や自信がほしかったのではないか。
 

まだ、自分はこんなにできる。

また自分は、こんなに役に立つ存在だ。
 

最終的には

そのことが自分の生きる糧となり、自信も取り戻し

自己再生をしていく健斗。
 

一方、祖父のほうはどうか。

独特の鋭い嗅覚で、

甘えられる相手の判断したら、とことん甘え、弱音を吐き

最後には「早く死にたい」という決まり言葉を連呼し

「そんなこと言わないで」という、お決まりの慰めの言葉を言ってもらって安心する。

自分のわがままが通じる相手と判断すれば、どこまでもわがままを言い

自分の自我をどこまでも通す。
 

一見弱そうに見えて、実はしたたか

すさまじい、生への執念。
 

祖父は、娘や息子の家で厄介になり

わがままを言っては、他に移るという生活を繰り返しており

したたかに自分の生きる場所を確保してきたということが、物語の中で分かってくる。
 

つまり、祖父は祖父なりにスクラップアンドビルドを繰り返してきた。
 

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この物語は、介護小説とか、ニートの再生ストーリーという風に見ることもできるかもしれないけれど
 

私には、生への絶対的肯定の物語だと思えました。
 

自分より下のものを見て、その優越感を糧にするとか

人の親切を、したたかに利用するとか

生きる手段は一見えげつなく見えても
 

苦しいことを我慢して正しく生きることと同じくらい

どんなことをしても生きていくしたたかさや強さは尊いことだし
 

生きていることで、人は何らかの役に立つ。
 

生への貪欲な執念を燃やした祖父のおかげで

健斗は、生きる強さを身に着けたわけだし
 

たぶん、祖父はこの先も周りに迷惑をかけながら生き続け

迷惑をかけられた人も、それによって強くたくましく生きていく。
 

破壊と再生
 

現実には、重いテーマではあるけれど

それを軽いタッチで、明るく読ませてもらえたので

読後感は、結構爽快な一冊でした。
 

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ツイッターでは、今日のお弁当を紹介しました。

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